- 院内急変を見抜こう:C=循環の異常をどう評価するか
- 循環の異常は院内急変を防げる病態
- 症例1:黒色便が出ている患者さん
- ショックの定義:血圧低下≠ショック
- バイタルサインの評価:血圧だけで判断しない
- 身体所見と検査:見て・聞いて・感じて評価する
- 「三つの窓」で臓器障害を評価する
- 症例2:歩行困難で救急搬送された患者さん
- ショックへの介入:臓器灌流を保つ
- 臓器灌流のイメージ:「水まき」
- まず真っ先にやるべきこと:ルート確保と輸液
- 輸液しつつショックのタイプを分類する
- ショック分類の3ステップ:超音波・病歴・身体診察
- 病歴も重要:あたりをつけるが、断定はしない
- 身体診察:頸静脈怒張が重要なヒント
- まとめ
- 動画で難しかったところ、質問はオープンチャットへ!
院内急変を見抜こう:C=循環の異常をどう評価するか
「ショック」「血圧が下がっている」
院内急変でよく聞く言葉ですよね。でも、実は循環の異常は、早めに察知して適切に介入できれば、そもそも急変に至らないことも多いんです。
今回は12月のテーマ「院内急変を見抜こう」の中でも、C=循環の異常をどう評価するかに絞ってお話しします。
気道のように、詰まった瞬間にいきなりバイタルが大崩れするわけではなく、Cは早期発見と早期介入が鍵になる病態です。
「循環の異常=ショック」をどう見抜くか、そして「なぜショックになっているのか」を考えられるようになることが、院内急変を防ぐための第一歩です。
症例ベースで、明日から使える評価のポイントを一緒に学んでいきましょう。
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循環の異常は院内急変を防げる病態
0:00~0:48
ABCDアプローチに沿って、院内急変を見抜く・対応するという話をしてきましたが、今回はその中の「C=循環」の異常と評価についてお話しします。
循環の異常というと、「ショック」「血圧が下がっている」と呼ばれてコールされる場面を想像すると思います。ただ、このCの異常は、実は「院内急変そのものを防げる」病態でもあります。
気道みたいに、詰まった瞬間にいきなりバイタルが大崩れするわけではなくて、Cは早めに察知して適切に介入できれば、そもそも急変に至らないことも多いんですよね。
だからこそ、「循環の異常=ショック」をどう見抜くか、そして「なぜショックになっているのか」を考えられるようになることが大事です。
症例1:黒色便が出ている患者さん
0:48~1:42
では、症例を一つイメージしてみましょう。受け持ちだと思って聞いてください。
70代女性、ふだんは健康。ここ数日元気がなく、黒色便が出ている患者さんです。バイタルサインは一見大きな問題はなさそう。同僚が血ガスを取ってくれて、ヘモグロビンが9.2、「貧血ありそうだな、この人大丈夫かな、一応ドクターに報告するか…」といった雰囲気です。
血圧も保たれているので、「ショックってほどではないか」と思いがちですよね。でも、それって本当に正しいのか、というのを今日は掘り下げたいわけです。
- 70代女性、黒色便あり、Hb 9.2の貧血
- 血圧は保たれている
- 「血圧が正常だからショックではない」と言えるのか?
ショックの定義:血圧低下≠ショック
1:42~2:19
ここで一度、ショックの定義をおさらいします。ショックとは「循環不全、つまり循環の異常によって起こる酸素需給バランスの破綻」です。
血圧が低いとか、脈が速いとか、ショックインデックスが1を超えているとかは”ヒント”にすぎなくて、本質は「酸素の供給<需要」になっている状態なんですね。
重症度の分類を見てみると、軽症のショック(クラス1)の段階では血圧はまだ正常です。血圧が下がるのは、すでにショックがかなり進行した段階。つまり「血圧が正常だからショックではない」とは言えない、ということをまず押さえておいてください。
- ショック=酸素の供給<需要の状態
- 血圧低下はショックの「ヒント」であり、本質ではない
- 軽症ショック(クラス1)では血圧は正常
- 血圧が下がるのはショックがかなり進行してから
バイタルサインの評価:血圧だけで判断しない
2:19~3:32
とはいえ、バイタルサインはやはり重要です。血圧が下がるよりも前に、脈拍が早くなることが多かったり、脈圧の広さで循環の余裕がなんとなく見えたりします。
呼吸数が増えて頻呼吸になっているとか、意識が不穏・ぼんやりしている、尿量が減っている、といった指標もヒントになります。
ポイントは「血圧だけで判断しないこと」です。
- 脈拍の増加(血圧低下より先に起こる)
- 脈圧の広さで循環の余裕を評価
- 頻呼吸、意識障害(不穏・ぼんやり)、尿量減少
- 血圧だけで判断しない
身体所見と検査:見て・聞いて・感じて評価する
3:32~4:25
さらに評価しないといけないのが、身体所見と検査です。顔色が蒼白でないか、チアノーゼがないか、頸静脈は怒張していないか。黒色便などの出血所見はないか。網状皮斑という、膝などに出る網目状の斑点がないか。
心雑音があれば「心臓が原因でショックになっているのでは?」という手がかりになります。
触って評価するのも大事で、例えばCRT(Capillary Refilling Time:毛細血管再充満時間)。爪を5〜10秒押して離して、赤みが2〜3秒以内に戻るかどうかを見るやつですね。最近は、このCRTが循環評価に有用という報告も増えています。
このように「見て・聞いて・感じて」循環を評価していきます。
- 蒼白、チアノーゼ、頸静脈怒張、網状皮斑を確認
- 出血所見(黒色便など)の有無
- 心雑音で心原性ショックの手がかり
- CRT(爪を押して2〜3秒以内に赤みが戻るか)が有用
「三つの窓」で臓器障害を評価する
4:25~6:41
じゃあ結局、こうした所見は何を見ているのか。大事なのは「三つの窓」を意識することです。
ショックでは、全身の酸素需給バランスが崩れるので、臓器障害として出やすいのが中枢神経、腎臓、皮膚です。
意識障害や、理由のない不安・そわそわ感があったら、「もしかしてショック?」と一度疑ってみる。尿量が減っていないかどうかも重要です。皮膚はとくに大事で、蒼白、冷感、網状皮斑などがないかを確認します。
これらに加えてCRTを見て、「これはショックを示唆するサインが揃っているな」と判断できるようになると、血圧が正常でもショックを見逃しにくくなります。
そんな視点で最初の症例を振り返ると、軽度の意識障害(JCS I-1)があり、手を触ると冷たい。血圧は保たれているけれど、「これはショックだ」と認知できるかどうかがポイントになります。
- ショックの「三つの窓」:中枢神経、腎臓、皮膚
- 中枢神経:意識障害、不安・そわそわ感
- 腎臓:尿量減少
- 皮膚:蒼白、冷感、網状皮斑、CRT延長
- 血圧が正常でも、これらのサインが揃っていればショックを疑う
症例2:歩行困難で救急搬送された患者さん
6:41~7:29
次に、別の症例を見てみましょう。80代女性、歩行困難。訪問看護師さんに発見されて救急要請されたケースです。
バイタルをみると、呼吸数がやや速く、意識も少し悪そう。ベースが意識清明だった人なら、これは意識障害と考えてよさそうです。発熱もあります。
血液ガスを確認すると、ラクテートが2.8 mmol/L。このラクテート、皆さんどれくらい意識して見ていますか?
ラクテートは、ショックかどうかを判断するうえで、とても鋭敏なマーカーです。mmol/L表示なら、「2以上は高い」と考える必要があります。
こういったバイタルと検査を組み合わせて、「これはショックだろう」と判断して対応していく、という流れになります。
- 80代女性、歩行困難、発熱あり
- 呼吸数やや速い、意識障害あり
- ラクテート 2.8 mmol/L(2以上は高い)
- ラクテートはショックの鋭敏なマーカー
ショックへの介入:臓器灌流を保つ
7:29~9:00
では、ショックだと判断したとき、何から考えるか。まずは「血圧が下がっているなら、どうやって維持するか」です。
介入の流れを大づかみにすると、
- 臓器灌流を保つためにMAP(平均血圧)を確保し、
- 酸素供給が足りなければ酸素投与を増やし、
- 酸素需要が多すぎるなら、挿管・人工呼吸や鎮静などで需要を減らす。
いろんな手段がありますが、まず意識してほしいのは「とにかく臓器灌流を保つ」という視点です。
臓器灌流のイメージ:「水まき」
9:00~10:48
臓器灌流と聞くと難しそうですが、イメージとしては「水まき」です。心臓から送り出される血液が、筋肉、肝臓、腸、皮膚などに十分巡っているかどうか。蛇口から出る水の量(心拍出量)が少なかったり、水道管の圧(血圧)が低かったりすると、先端まで水が届かない。これが、臓器への酸素不足につながります。
この灌流圧を規定しているのがMAP(平均血圧)で、MAPは、心拍出量(CO)と血管抵抗(R)の掛け算で決まります。
心拍出量は、1回拍出量×心拍数。1回拍出量は、循環血液量がしっかりあるか、心収縮力は保たれているか、拍出先の動脈に強い抵抗がないか、といった要素で決まります。
つまりショックでは、
- 血管抵抗が下がっているのか、
- 循環血液量が少ないのか、
- 心収縮力が低下しているのか、
どこに問題があるかを考えながら介入することが大事になります。
- 臓器灌流のイメージは「水まき」
- MAP(平均血圧)= 心拍出量 × 血管抵抗
- 心拍出量 = 1回拍出量 × 心拍数
- 1回拍出量は、循環血液量、心収縮力、血管抵抗で決まる
- どこに問題があるかを考えながら介入する
まず真っ先にやるべきこと:ルート確保と輸液
10:48~12:36
その中でも、まず真っ先にやるべきことが「ルートを確保して輸液する」です。末梢静脈路の確保は、救急診療で本当に重要な手技です。
ショック時は前負荷が下がっているので、まず輸液でサポートするのが基本ですし、それに加えて、薬剤を投与するルートとしても不可欠です。挿管するにしても、昇圧薬を使うにしても、投与経路がなければ何も始まりません。
だからこそ、できれば18Gなどの太い針で2本、しっかりルートを取る。数字が小さいゲージほど流量が稼げるので、太いものを選ぶ、という感覚も覚えておいてください。
「ショックという魔王と戦うなら、棍棒じゃなくてロケットランチャーを持とう」というイメージですね。
- ルート確保と輸液が最優先
- 末梢静脈路確保は救急診療で重要な手技
- できれば18Gなどの太い針で2本確保
- 数字が小さいゲージほど流量が稼げる
- 「棍棒じゃなくてロケットランチャーを持とう」
輸液しつつショックのタイプを分類する
12:36~13:32
とはいえ、「輸液すればいい」と言われると、うっ血性肺水腫や心不全の悪化が心配になりますよね。
だからこそ、輸液しつつ、同時に「どのタイプのショックか」を分類していく必要があります。大きくは、
- 循環血液量減少性ショック
- 血液分布異常性ショック
- 心原性ショック
- 閉塞性ショック
この4つのどれがメインなのかを見極めていきます。
呼吸不全のところでもやったように、「メカニズムを意識して見る」というのが大事です。
- 輸液しつつ、ショックのタイプを分類する
- 循環血液量減少性、血液分布異常性、心原性、閉塞性の4つ
- メカニズムを意識して見る
ショック分類の3ステップ:超音波・病歴・身体診察
13:32~14:56
ショックの分類には、私は「超音波」「病歴」「身体診察」の3ステップで考えると整理しやすいと思っています。
まず超音波。心エコーと肺エコーをさっと当てるだけで、ショックの大枠が見えてきます。心収縮が保たれているか、心嚢液がたまっていないか、右室が拡大していないか、局所的な壁運動異常はないか。下大静脈が拡張しているか虚脱しているか。
院内急変の場面で下大静脈がパンパンに拡張しているなら、閉塞性ショックや心原性ショックを強く疑いますし、虚脱しているなら循環血液量減少性ショックや分布異常性ショックを考えます。
肺エコーでラングスライディングがなければ、緊張性気胸も疑わないといけません。エコーが使えると、次に何をすべきかが一気にクリアになります。
- ショック分類の3ステップ:超音波・病歴・身体診察
- 心エコー・肺エコーでショックの大枠を把握
- 下大静脈の拡張・虚脱でショックのタイプを推測
- ラングスライディングなし → 緊張性気胸を疑う
病歴も重要:あたりをつけるが、断定はしない
14:56~15:48
病歴も非常に重要です。腰痛と発熱でショックになったら、腎盂腎炎からの敗血症かもしれない。蜂に刺されたあとに急激に血圧が落ちたら、アナフィラキシーを疑う。交通事故後のショックなら、まずは出血性ショックを第一に考える。
ただし、病歴だけで決めつけるのは危険です。腰痛+発熱でも、実は腹部大動脈解離だった、という可能性もゼロではありません。
「病歴であたりをつけるが、断定はしない」という姿勢が大事です。
- 病歴でショックのタイプを推測する
- 腰痛+発熱 → 敗血症、蜂刺され → アナフィラキシー、外傷 → 出血性ショック
- 病歴だけで決めつけるのは危険
- 「あたりをつけるが、断定はしない」
身体診察:頸静脈怒張が重要なヒント
15:48~17:33
最後に身体診察。患者さんを見て、聞いて、触って評価します。
頸静脈の怒張はとても重要で、本来はベッドを少し上げて評価しますが、ショックの場面ではフラットのまま「明らかに見えるかどうか」だけでも十分なヒントになります。頸静脈がはっきり見えるなら、心原性ショックや閉塞性ショックが疑わしくなります。
呼吸不全が合併していて、水泡音が聞こえるなら、心原性ショックの可能性が上がります。手足が冷たいかどうかもポイントで、多くのショックでは末梢冷感がありますが、分布異常性ショック(敗血症など)では初期にはむしろ温かいこともあります。
心雑音を聞いて弁膜症を疑う場面もあります。
こうした視点で先ほどの患者さんを見ると、末梢はポカポカしている、発熱・歩行困難の経過、エコーでは下大静脈は虚脱、心臓は過収縮気味。「これは血液分布異常性ショック、つまり敗血症性ショックだろう」というところまでたどり着けます。
- 頸静脈怒張 → 心原性・閉塞性ショックを疑う
- 水泡音 → 心原性ショックの可能性
- 末梢冷感 → 多くのショックで見られる
- 末梢温かい → 分布異常性ショック(敗血症)の初期
- 症例2:末梢ポカポカ、発熱、IVC虚脱 → 敗血症性ショック
まとめ
17:33~終了
今日のセミナーでは、院内急変のABCDアプローチの中でも、C=循環の異常をどう評価するかについて解説しました。
重要なポイントを振り返りましょう。
- ショック=酸素の供給<需要の状態。血圧低下は「ヒント」であり本質ではない
- 軽症ショック(クラス1)では血圧は正常。血圧が下がるのは進行してから
- 「三つの窓」(中枢神経、腎臓、皮膚)で臓器障害を評価する
- ラクテート≧2 mmol/Lはショックの鋭敏なマーカー
- 臓器灌流を保つことが最優先。MAP = 心拍出量 × 血管抵抗
- まず太いルート(18Gなど)を2本確保して輸液
- ショック分類は「超音波・病歴・身体診察」の3ステップで
- 頸静脈怒張、末梢の温度、下大静脈の拡張・虚脱が重要なヒント
原因がある程度わかれば、ショックに対してできることも見えてきます。
このあたりの具体的な治療や細かい手順については、月末のセミナーでさらに深掘りしていこうと思います。
院内急変の初期対応で、循環の異常を見抜き、適切に介入できるよう、これらのポイントを日々の診療に活かしていきましょう!
動画で難しかったところ、質問はオープンチャットへ!
今回のセミナー内容で難しかった部分や、もっと詳しく知りたいことはありませんでしたか?
わからないことがあれば、お気軽にオープンチャットで質問してください!
ショックの分類や、具体的な介入方法について、一緒に学んでいきましょう。
📼 アーカイブ配信もあるので安心!
「当日参加できない…」という方もご安心ください。
オンラインセミナーはアーカイブ配信を行いますので、後日ご都合の良い時間にゆっくりご視聴いただけます。
院内急変の初期対応、ABCDアプローチをしっかり身につけて、明日からの臨床に活かしていきましょう!





