ICUでの「血小板減少」にどう立ち向かうか?
「これは危険な血小板減少なのか?」
「HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)は疑ったほうがいいのか?」
ICUで血小板減少に直面すると、さまざまな疑問や不安が頭をよぎるかと思います。本記事では、そうした現場での悩みに応えられるよう、様々なエビデンス(1)を踏まえながら丁寧に解説していきます。
ICUは、非常に重症度が高い患者さんが入院する場所です。多くのデバイスや薬剤を使うなかで、血小板減少は非常に多岐にわたる原因によって起こります。しかも、出血リスクの評価や治療介入のタイミングを誤ると、患者さんの生命予後に重大な影響を及ぼしかねません。
この記事では、まず緊急性の把握を最優先に、原因の鑑別ポイントや具体的なアプローチをわかりやすくまとめました。どうぞ最後までお付き合いくださいね!
ICUローテ中の研修医の先生方
ICUやHCUなど急性期病棟で勤務する看護師の皆さま
そして集中治療ローテ中の専攻医の先生方
これらの方々には、ぜひ読んでいただきたい内容です。
明日から実践できるアクションプラン・看護師さん向けコラムも後半にありますので、最後まで是非読んでくださいね。
血小板減少とは? 最低限押さえたい基礎知識
血小板数が一般的に15万/μL未満になる状態を指しますが(1)、ICUでは10万/μLやそれ以下になることも少なくありません。
血小板減少を発見したら、
- 出血リスクの高い重症度
- 急に血小板が減少し始めたスピード
- 考えられる原因(薬剤投与歴・感染など)
これらを素早く整理する必要があります。
数値だけを頼らない! 出血リスクを正しく見極める
血小板減少を見かけると、思わず「輸血が必要かも…」と慌ててしまいがちですが、数値だけでは判断しきれないことが多々あります。
- 血小板<1万/μL、あるいは**粘膜出血(wet purpura)**がみられる場合
- 血小板<5万/μLで活動性出血がある、あるいは侵襲的処置・分娩の予定がある場合
- HIT、TMA(血栓性微小血管障害症)、急性白血病などが疑われる場合
上記のようなケースは特に、緊急度の高い状況として扱いましょう。実際、出血リスクを判断するには、身体診察がカギになります(2)。
たとえ血小板数がそこまで低くなくても、粘膜出血、体幹部まで広がる紫斑、自発性の出血などがあれば、血小板数にかかわらず早急な対処を検討してください。
鑑別フローチャート:ICUでよくみる原因を整理しましょう
ICUで血小板が減少した際に、まず頭に入れておきたい原因は以下のとおりです。
- 敗血症・DIC
- 感染による炎症・凝固亢進が血小板を消費。DICの合併でさらに悪化しやすいです。
- HIT(ヘパリン起因性血小板減少症)
- ヘパリン投与中・投与後5~10日頃に急激に血小板が減る。4Tスコアやヘパリン抗PF4抗体検査を積極的に行う必要があります(3)。
- TMA(血栓性微小血管障害症)
- MAHA(破砕赤血球)、急性腎障害、神経症状など多彩な症状を示します。見逃すと致命的な経過をとる場合も。
- 急性白血病(特に急性前骨髄球性白血病)、薬剤性
- APL(急性前骨髄球性白血病)ではDICを合併しやすく、素早い対応が必要です。抗がん剤やその他薬剤による骨髄抑制も要注意です。
鑑別の際には、凝固検査や末梢血塗抹検査、投与薬剤の確認が欠かせません。
またECMOなどの人工補助循環を使用している場合は、デバイス関連の血小板消費も見落とさないようにしましょう。
こちらのフローチャートが参考になります▼
(3より引用)
ここだけは見逃さないで:HITとTMA
ICUで見逃しがちなHITとTMAは、早期発見がとても大切です。
- HIT: ヘパリンを使用後に血小板数が急減。血栓形成が同時に起こりやすいのが特徴です。疑わしい時はすぐに4Tスコアをチェックし、必要であればアルガトロバンなど代替薬への切り替えを検討してください。
- TMA: 溶血性貧血と臓器障害をともなう血小板減少が特徴です。血漿交換療法など、早期治療の開始が極めて重要になります。LDH、破砕赤血球、ハプトグロビンなどをしっかり確認し、少しでも怪しい場合は専門科へ相談しましょう。
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明日から実践できるアクションプラン(まとめ)
- 身体診察に基づく危険サインの見極め
- 粘膜出血や体幹部の紫斑など、「血小板数」よりも「所見」を優先して緊急度を判断する意識を。
- HITとTMAを常に意識
- 血小板が急に落ち始めた患者さんは、まずHITやTMAを除外するために検査やコンサルテーションを早めに。
- 効率的な検査オーダー
- 末梢血塗抹、凝固検査、投与薬剤歴のチェックはルーチンに。
- 緊急性のある患者さんへの早期介入
- 大量出血が疑われる場合や、明らかな粘膜出血があれば、輸血や血漿交換療法などの早急な対応を躊躇しない。
看護師さん向けコラム:明日から実践できるポイント
- 毎日の観察で小さな変化を見逃さない
- 患者さんが「ここが痛い」「出血しやすい」と感じているサインをこまめに拾い、すぐに報告していただけると大変助かります。
- ライン管理や抜去部位のチェック
- 点滴ラインやカテーテル留置部位に血腫や出血がないか、シフトごとに重点的に確認してください。
- ヘパリンなど抗凝固薬のダブルチェック
- 血小板が下がっているときのヘパリン投与は特に慎重になります。ダブルチェックと投与履歴の共有を徹底しましょう。
- 口腔ケアや清拭時の粘膜保護
- 口腔ケアや洗浄の際、ちょっとした刺激で粘膜出血が起こりやすくなります。丁寧なケアとともに、万が一出血した場合は早めにスタッフ間で情報共有してください。
- 患者さんの声に耳を傾ける
- 「いつもより出血しやすい」「点滴がにじんでいる」など、患者さんが気づきやすいことは多いです。ぜひこまめな声かけを大切にしてみてください。
おわりに
ICUでの血小板減少は、敗血症やDICといった比較的頻度の高い病態から、HITやTMAなど見逃してはいけない病態まで多岐にわたります。
患者さんの血小板が下がったときには、「緊急度」を見極めつつ、原因をしっかり絞り込むことが大切です。出血リスクは数値だけでは把握できない部分が多いので、身体診察や現場観察をフルに活かしてください。
本記事が、ICUで日々奮闘されている皆さまのお役に少しでも立てれば幸いです。
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参考文献
(1) Greinacher A, Selleng S. How I evaluate and treat thrombocytopenia in the intensive care unit patient. Blood. 2016 Dec 29;128(26):3032-3042. doi: 10.1182/blood-2016-09-693655. Epub 2016 Nov 9. PMID: 28034871.
(2)山田悠史. Hospitalist. 2015:3:829-36
(3)みんなの集中治療科