10月は、1か月を通して「意識障害」を一緒に学んでいきます。これまでのセミナーでもABCDEアプローチの中で「Dの異常」を扱ってきましたが、JCSやGCSといった評価の方法が中心でした。今月は評価の方法に加えて、意識障害がそもそもどういう概念なのか、救急で意識障害を診るうえでの土台となる知識を整理していきます。第1回は、その基本と概念です。
- Dの評価の前に確認しておくこと(ABCの安定化)を説明できる
- 意識を「覚醒度」と「見当識」に分けて、障害される部位と原因を整理できる
- JCSとGCSを、それぞれの特徴を踏まえて使い分けられる
1. 症例:左片麻痺で搬送された72歳の女性
まずは、次のような症例をイメージしてみてください。
- 72歳女性、主訴は左片麻痺
- 朝7時頃、ベッドの上で動けなくなっているところを家族に発見されました
- 前日22時の就寝までは普段どおりでした
- 救急隊接触時:左片麻痺あり。痙攣や外傷は、外表上も病歴上もありません
- 病院前の意識レベル:JCS Ⅰ-3、GCS E4V2M6
- 来院時のバイタルサインは、救急隊接触時から大きな変化はありません
脳卒中の診療では、発症からの時間が治療方針を左右します。脳梗塞であれば再灌流療法、脳出血であれば手術を検討することになりますので、方針を決めるための頭部CTを急ぎたくなる場面です。
では、このままCT室へ直行してよいのでしょうか。今回は、この問いを入り口にして、次の4つを順番に整理していきます。
- Dの評価の前に確認しておくこと
- 意識障害という概念(どこの異常で起きるのか、時間経過でどう整理するか)
- JCSとGCSのつけ方
- JCSとGCSの使い分け
2. Dの評価は、ABCが安定してから行います
Primary surveyやABCDEアプローチの基本として繰り返しお伝えしていますが、Dの評価はABCが安定してから行うのが原則です。
ABCに大きな異常があると、脳の酸素需給バランスが崩れている可能性が高くなります。脳に届く酸素が不足すると、脳はエネルギー不足の状態になり、臓器としての機能が障害されます。つまり、脳の血管が破れたり詰まったりしていなくても、低酸素や循環不全によって二次性に意識の異常をきたすことがあります。
ABCに異常があれば、ABCの安定化を優先します。ABCが安定したら、そこでもう一度Dを評価し直します。ABCが不安定なままつけた意識レベルは、脳そのものの障害を反映しているとは限りません。
今回の症例でも、CTへ向かう前に、気道・呼吸・循環に大きな異常がないことを確認するところから始めます。
3. 意識は「覚醒度」と「見当識」の2つの要素で考えます
Dで評価している「意識」をもう少し分解すると、大きく2つの要素に分かれます。
目が開いているか、呼びかけに受け答えができるか、という要素です。脳幹にある上行性網様体賦活系(ARAS)が大脳に信号を送ることで保たれています。
今日の日付、今いる場所、周囲の状況などを正しく把握できているか、という要素です。大脳皮質全体の働きによって保たれています。
意識障害は、このどちらか一方、もしくは両方に異常をきたした状態です。JCSやGCSは、この2つの要素をそれぞれの方法で点数化したもの、と捉えると理解しやすくなります。
4. どこの異常で意識障害が起きるのかを整理します
覚醒度と見当識に対応させると、意識障害の原因は「脳幹のARASの機能不全」と「大脳皮質全体の機能不全」に大別できます。解剖をイメージしながら見ていきましょう。
| 障害される部位 | 主な機序 | 代表的な原因 |
|---|---|---|
| 脳幹(ARAS) | 脳幹に及ぶ器質的な異常 | 脳幹の梗塞・出血、脳腫瘍、テント上病変による脳幹の圧迫など |
| 大脳皮質全体 | 脳全体に広がる器質的な異常 | 広範な脳梗塞・脳出血、くも膜下出血、頭部外傷など |
| 大脳皮質全体 | 全身の問題による機能不全 | 低酸素、低血糖などの代謝障害、薬物、アルコールなど |
器質的な異常は、脳幹に及べばARASの機能不全を、脳全体に及べば大脳皮質の機能不全を起こします。
一方で、代謝性や薬物性の原因は、一見すると脳そのものには障害がないように感じられるかもしれません。しかし実際には、これらが大脳皮質全体の機能不全を引き起こすことで意識障害が生じます。アルコールを大量に飲んで意識が悪くなるのも、同じ仕組みで説明できます。
「頭の病気ではなさそうなのに、なぜ意識が悪いのか」という疑問には、「全身の問題が大脳皮質の機能を落としているから」と答えられるようにしておきましょう。次回以降に扱う鑑別の土台になる考え方です。
5. 時間経過で「意識障害」「一過性意識障害」「失神」を区別します
覚醒度と見当識に加えて、もう1つ大切なのが時間経過(タイムコース)という軸です。意識レベルが下がったあと、どのような経過をたどるかによって、次の3つに整理できます。
| 分類 | 時間経過 | 代表的な原因 |
|---|---|---|
| 意識障害 | 原因が解除されるまで、低下した状態が続きます(遷延) | 脳卒中、代謝障害、薬物など |
| 一過性意識障害 | 急に低下し、時間経過や介入のあとに緩やかに回復します | てんかん発作、低血糖、中毒、脳震盪など |
| 失神 | 数十秒ほどの短時間で、自然に、完全に回復します | 脳全体の一過性の血流低下 |
失神は、脳全体の血流が一時的に低下することで起こります。倒れて臥位になり、脳に血液が流れるようになると回復しますので、持続は短時間で、回復も速やかです。一過性意識障害は、失神と比べると回復が緩やかである点が異なります。
また、一度低下した意識が少し良くなったものの、普段の状態までは戻りきっていない、という場合は「意識障害が続いている」と考えます。
目の前の患者さんのJCSやGCSが同じ点数であっても、どのような時間経過でその状態に至ったのかによって、考える病態は変わってきます。
6. 本当に意識障害かどうかを、3つの視点で確かめます
ある一時点のJCSやGCSの点数だけで「意識障害あり」と判断するのではなく、次の3つの視点を合わせて確認します。
-
普段と比較します
軽度の認知機能低下があり、普段から少しぼんやりしている方もいらっしゃいます。ご家族から見て「いつもどおり」なのか、「今日はいつもと違う」のかは、重要な情報です。
-
経時的な変化を追います
救急隊接触時、来院時、初療中と、時間を追って比較します。前の評価より下がっていれば、病態が進行している可能性を考えます。
-
失語の可能性を考えます
発語がないことと、意識障害があることは、必ずしも一致しません。覚醒していて指示にも従えるのに言葉が出ない場合は、失語を考えます(後半の症例で詳しく扱います)。
もう1つ押さえておきたいのは、意識レベルはモニターには表示されないという点です。心拍数や血圧、SpO2はモニターが示してくれますが、意識レベルは私たちが自分で評価しなければ分かりません。そのための共通言語が、JCSとGCSです。
7. JCS:開眼の有無で3段階に分けます
JCS(Japan Coma Scale)は日本で作られたスケールです。覚醒度、つまり開眼の状態によって、まず3段階に分けます。
| 桁 | 点数 | 内容 |
|---|---|---|
| Ⅰ桁 刺激しなくても覚醒している |
1 | だいたい清明だが、今ひとつはっきりしない |
| 2 | 見当識障害がある | |
| 3 | 自分の名前、生年月日が言えない | |
| Ⅱ桁 刺激すると覚醒する |
10 | 普通の呼びかけで容易に開眼する |
| 20 | 大きな声、または体を揺さぶることで開眼する | |
| 30 | 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと、かろうじて開眼する | |
| Ⅲ桁 刺激しても覚醒しない |
100 | 痛み刺激に対して、払いのける動作をする |
| 200 | 痛み刺激で少し手足を動かしたり、顔をしかめたりする | |
| 300 | 痛み刺激に反応しない |
JCSは分かりやすく覚えやすい反面、評価者によってばらつきが出やすいスケールでもあります。迷いやすいポイントを3つ整理しておきます。
- Ⅰ桁かⅡ桁か:開眼が続くかどうかで判断します。セミナーでは、15〜20秒ほど開眼を保てるかを目安としています。会話中は目が開いていても、すぐに閉じてしまう場合はⅡ桁と考えます。
- 2か3か:「変わる内容」を間違えるのか、「変わらない内容」を間違えるのかで分けます。今日の日付や今いる場所は日によって変わる内容で、これを間違えるのが2です。名前や生年月日は変わらない内容で、これが言えないのが3です。
- Ⅲ-200の限界:「手足を動かす、顔をしかめる」という表現では、GCSでいう異常屈曲(除皮質硬直)と伸展反応(除脳硬直)を区別できません。
3つ目の点からも、救急外来で余裕があれば、JCSとGCSの両方を評価しておくことをおすすめします。
8. GCS:E・V・Mの3項目で評価します
GCS(Glasgow Coma Scale)は1974年に発表され、世界で広く使われているスケールです。開眼(E:Eye opening)、言語反応(V:Verbal response)、運動反応(M:Motor response)の3項目を評価します。満点は15点、最低点はすべて1点の3点です。
| 点数 | E:開眼(4点) | V:言語反応(5点) | M:運動反応(6点) |
|---|---|---|---|
| 6 | ― | ― | 指示に従う |
| 5 | ― | 見当識が保たれている | 痛み刺激の部位に手を持っていく(払いのける) |
| 4 | 自発的に開眼 | 混乱した会話 | 痛み刺激から逃避する |
| 3 | 呼びかけで開眼 | 不適当な単語 | 異常屈曲(除皮質硬直) |
| 2 | 痛み刺激で開眼 | 理解できない声(うなり声) | 伸展反応(除脳硬直) |
| 1 | 開眼しない | 発語なし | 反応なし |
Eは、JCSの「何桁か」に近い考え方です。Vは、JCS Ⅰ桁で見ている見当識に加えて、発語の内容をより細かく評価できます。Mは、JCS Ⅲ-200では区別できなかった異常屈曲と伸展反応を分けて記録できます。GCSのほうが詳細に評価しやすいのは、このためです。
VとMは、体の動きと一緒に覚えます
Eは比較的覚えやすいのですが、VとMは文章のまま暗記しようとすると大変です。セミナーでは、体の動きと組み合わせた覚え方を紹介しています。
- 6:指示が通る(OK)
- 5:「5本指」の手で払いのける
- 4:避ける(よける=4)
- 3:屈曲した腕の形が「3」に見える
- 2:伸展した腕の形を「2」と見る
- 1:反応なし
- 5:会話が成立する(OK)
- 4:混乱した会話(何を言っているのか分かりにくい)
- 3:単語のみ(意味のつながらない単語)
- 2:声のみ(「うー」といううなり声)
- 1:発語なし
実際の体の動きは動画で実演していますので、ぜひ一緒に動かしながら確認してみてください。
9. 症例に戻って、JCSとGCSをつけてみましょう
病院前の評価は、JCS Ⅰ-3、GCS E4V2M6でした。来院後、改めて評価したときの様子は次のとおりです。
- 呼びかけると開眼します。話しかけている間は開眼していますが、数秒で閉じてしまいます
- 名前を尋ねても、「うー」という声が出るのみで、発語はありません
- 右手は「握る」「離す」の指示に応じることができます
少し考えてから、下の答えに進んでみてください。
- JCS Ⅱ-10:開眼が続かず、呼びかけで開眼するため、Ⅱ桁の10と評価します
- E3:呼びかけで開眼します
- V2:うなり声のみです
- M6:指示に従うことができます
病院前はJCS Ⅰ桁、E4でしたので、覚醒度が1段階下がっています。見直した結果、意識レベルが経時的に悪化している可能性がある、と分かります。先ほど確認した「経時的な変化を追う」が役立つ場面です。
EとMが保たれているのにVが低いときは、失語を考えます
この症例では、M6で指示に従えるのに、Vは2と大きく下がっています。このように、開眼や運動反応と、言語反応との間に差があるときは、失語の可能性を考えます。
| パターン | GCSの例 | 考えること |
|---|---|---|
| EとVがそろって低下 | E1V1M4 など | 意識障害 |
| EやMは保たれ、Vが目立って低下 | E4V2M6、E3V2M6 など | 失語の可能性 |
失語をきたす疾患のうち、治療介入を急ぐ必要があるのは脳梗塞です。「発語がないから意識が悪い」とまとめてしまうと、失語という局所神経症状を見落とすことがあります。E・V・Mを合計点ではなく、項目ごとに記録することが、この見落としを防ぐことにつながります。
冒頭の「このままCT室へ直行してよいか」という問いに戻ると、ABCの安定を確認し、Dを評価し直したうえで画像検査に進む、という順序になります。評価し直したことで、意識レベルの悪化と失語の可能性という、その後の方針に関わる情報が得られました。
10. JCSとGCSは、特徴を知ったうえで使い分けます
覚醒度を軸に、短時間で簡便に評価できます。病院前や初期対応で、意識レベルを手短に共有したい場面に向いています。
E・V・Mの項目ごとに詳細に評価でき、経時的な変化を追うのに向いています。失語のパターンや、異常屈曲と伸展反応の区別も記録できます。
どちらも意識レベルの評価に欠かせないスケールです。場面に合わせて使い分け、初期診療のカルテには両方を記載しておくとよいと思います。
- Dの評価はABCが安定してから行います。ABCに異常があれば安定化を優先し、そのあとでDを評価し直します。
- 意識は覚醒度(脳幹のARAS)と見当識(大脳皮質全体)の2つの要素で考えます。両方が障害されることもあります。
- 代謝性や薬物性の原因でも、大脳皮質全体の機能不全を介して意識障害が起こります。
- 時間経過で、意識障害・一過性意識障害・失神を区別します。
- 本当に意識障害かどうかは、普段との比較・経時的な変化・失語の可能性の3つの視点で確かめます。
- JCSは開眼が続くかどうかを確認します。数秒の開眼ではⅠ桁としません。
- GCSはE・V・Mを項目ごとに評価します。VとMは体の動きと一緒に覚えましょう。
次回は、意識障害の鑑別を扱います。今回整理した「どこの異常で起きるのか」という考え方が、そのまま鑑別の枠組みにつながっていきます。
参考文献
- Teasdale G, Jennett B. Assessment of coma and impaired consciousness. A practical scale. Lancet. 1974;2(7872):81-84. doi:10.1016/s0140-6736(74)91639-0
- Teasdale G, Maas A, Lecky F, et al. The Glasgow Coma Scale at 40 years: standing the test of time. Lancet Neurol. 2014;13(8):844-854. doi:10.1016/S1474-4422(14)70120-6
- 太田富雄, 和賀志郎, 半田肇, ほか. 意識障害の新しい分類法試案:数量的表現(Ⅲ群3段階方式)の可能性について. 脳神経外科. 1974;2(9):623-627.
- Edlow JA, Rabinstein A, Traub SJ, Wijdicks EFM. Diagnosis of reversible causes of coma. Lancet. 2014;384(9959):2064-2076. doi:10.1016/S0140-6736(13)62184-4
- Brignole M, Moya A, de Lange FJ, et al. 2018 ESC Guidelines for the diagnosis and management of syncope. Eur Heart J. 2018;39(21):1883-1948. doi:10.1093/eurheartj/ehy037





