Qラボ

輸液製剤の基本を学ぼう【2026年9月Qラボアーカイブセミナーその1】

動画はこちら

2026年9月のQラボのテーマは、輸液製剤です。輸液は、ショックなどの循環の異常に対する治療はもちろん、病棟管理でも毎日のように使う、とても身近な治療ですよね。ただ、「生理食塩水」「3号液」「細胞外液」「維持液」など、どれが何なのかを改めて学ぶ機会はなかなかないと思います。
そこで今回は、輸液製剤を理解するための土台として、体の中の水(体液)がどこに分布し、入れた輸液がどこへ行くのかという基本から、一緒に整理していきましょう。

今日の目標

  • 点滴している輸液製剤が、体のどこに分布していくのかを説明できるようになる
  • 目の前の患者さんに輸液をするときの目的を言語化できるようになる
  • 「とりあえず3本回し」のようななんとなくの輸液に、違和感を持てるようになる

1現場でよく聞く「とりあえず」の輸液

まずは、現場でよく耳にする一言を思い出してみましょう。

こんな指示、聞いたこと(出したこと)はありませんか?

  • 救急外来でルート確保するとき、「とりあえずソルデム3A(ソルアセト・ラクテック)でお願いします」
  • 入院中の点滴で、「とりあえず3号液でつなぎましょう」
  • 「感染もありそうだし脱水っぽいから、朝まで100mL/hでいきますか」

こうした指示の背景には、本来「どこに水を届けたいのか」という考えがあるはずです。そこを理解しておくと、「あれ、この指示ってもしかしたらおかしいかも?」という違和感を持てるようになります。それが今回のゴールのひとつです。

2体の中の水は、3つの場所に分かれている

まずは自分の体のことから勉強してみましょう。「8:3:1」という数字、学生時代に見たことがある方も多いのではないでしょうか。これは、体の中の水がどこにどれだけあるかの比です。
体の水は、大きく細胞の中細胞の外に分けて考えます。

① 細胞内液(8)
細胞の中にある水です。いちばん多いのがここです。
② 間質(3)
細胞と血管のあいだにある水です。血管内と合わせて細胞外液と呼びます。
③ 血管内(1)
血管の中を流れる水です。いちばん少ないのがここです。

ポイントは、間質+血管内=細胞外液という関係です。臨床で「脱水があるから血管内に水を入れたい」と思ったとき、入れた輸液が3つの場所すべてに均等に広がっていく製剤なのか、それともなるべく細胞外にとどまる製剤なのかで、目的の達成度が大きく変わってくるんですね。

33つの場所を隔てる「2つの膜」

この3つの場所を区切っているのが、細胞膜毛細血管膜という2つの膜です。水や電解質は、この膜を行き来しながら体の中を移動しています。

細胞膜(細胞内 ⇔ 間質)
水は通すけれど、電解質は通さないのがポイントです。ここで働く力が、次に出てくる張度です。
毛細血管膜(間質 ⇔ 血管内)
水も電解質も通す一方で、アルブミンのような大きなタンパクは通しません。ここで働くのがスターリングの法則です。

今の時点では、「水は3つの場所に分布していて、2つの膜を通じて移動する。その背景には水を動かす原理がある」というところまで押さえておけば大丈夫ですよ。

4張度:細胞膜をはさんで水を動かす力

張度(ちょうど)という言葉は少し専門的ですが、ひとことで言うと「細胞膜をはさんで水を動かす力」のことです。細胞膜は水しか通しませんので、水は張度が低い側から高い側へ引っ張られると覚えましょう。細胞内と細胞外の張度が同じであれば、水は動きません。

等張
細胞内外の張度が同じなので、入れた輸液は細胞外にとどまります
高張
張度が高いので、細胞内から水を引き出します
低張(自由水に近い)
真水に近いので、細胞内にも水が届きます

では、この張度は何で決まるのでしょうか。「濃度」ではなく「張度」というのがポイントで、ナトリウム(Na)グルコース(血糖)によって規定されます。

⚠ 張度と血漿浸透圧は別物です

血漿浸透圧の式にはBUNも含まれますが、BUNは細胞膜を自由に通過できるため、細胞内外の水の移動には関わりません。張度を決めるのはナトリウムとグルコースだ、というところを押さえておきましょう。

とはいえ、毎回この式を計算しているわけではありません。それぞれの輸液製剤がどこに分布するのかを理解すると、張度の意味が自然と分かってきますよ。

5輸液製剤ごとに、水の行き先はこんなに違う

0.9% 生理食塩水(細胞外液)
Na 154mEq/Lで、張度は体液とほぼ同じ(等張)です。細胞内外で水は動かず、全量が細胞外に分布します。
3% 高張食塩水
張度が体液よりはるかに高いので、細胞内から細胞外へ水を引き出します。急性の低ナトリウム血症で脳浮腫を取りたいときなどに使います。
5% ブドウ糖液(自由水)
ブドウ糖は速やかに代謝されるので、基本的にはと考えます。張度を変えないため、8:3:1のまま全体に広がります

ここで、1Lを投与したときに血管内に残る量を比べてみましょう。

⚠ 生食1Lで血管内に残るのは 250mL、ブドウ糖1Lなら 83mL

生理食塩水は細胞外液(間質3:血管内1)に分布するので、1L入れても血管内に残るのは約250mLです。ブドウ糖液は8:3:1で全体に広がるため、血管内に残るのはわずか約83mL。ショックのときに「血管内のボリュームを増やしたい」なら、細胞外にとどまる製剤を選ぶのが理にかなっていますよね。

救急外来で「まずは細胞外液で」とよく言われるのは、脱水やショックの患者さんが多く、血管内に効率よくとどまる輸液が合理的だからです。何を入れるかで水の行き先が変わる。だからこそ、目的に合わせて輸液を選びましょう。

6スターリングの法則:毛細血管膜をはさんだ水の動き

後半戦は、毛細血管膜のお話です。細胞外液の中でも、輸液は全部が血管内に行くわけではなく、間質と血管内に分かれていましたよね。ここで働いているのがスターリングの法則です。学生時代に必ず習っているはずですが、難しくてスルーしてしまった方も多いと思うので、簡単にまとめてみます。
毛細血管膜をはさんだ水の移動は、2つの圧で決まります。

① 静水圧
血管内の圧が高いと、水は血管内から間質へ押し出されます。圧が高いほうから低いほうへ逃げる、というイメージです。
② 膠質浸透圧
アルブミンなどのタンパクが、間質から血管内へ水を引き込む力です。アルブミンは毛細血管膜を通らないので、血管内の膠質浸透圧を保つ役割を果たしています。

低アルブミン血症でむくむのは、血管内の膠質浸透圧が下がって、水が間質へ逃げてしまうからなんですね。

7【発展】アルブミン製剤は本当に「全部血管内に残る」のか?

ここまでの理屈でいくと、「5%アルブミン液なら、1L入れたら全部血管内に残るのでは?」と思う方もいるかもしれません。理論上はその通りです。

⚠ 重症患者では理論どおりにはいきません

生理食塩水とアルブミンを比較した研究では、死亡率に差はないとされています。重症患者では毛細血管膜の構造そのものが壊れていることが多く、膠質液であっても血管外へ漏れてしまうためです。重症例では、血管内に残るのはだいたい3:2程度と考えておきましょう。

原理原則どおりにならないのが臨床の難しいところです。ただ、それを知らずに漫然と輸液するのと、「理論上はこれくらい残るはず。では、なぜ残らないのか?」と考えながら輸液するのとでは大きな差があります。まずは原理を理解して、そこからより深く学んでいきましょう。

まとめ

  • 体の水は細胞内液:間質:血管内=8:3:1に分布し、間質+血管内が細胞外液です。
  • 3つの場所を隔てるのは細胞膜(水のみ通す)と毛細血管膜(水と電解質を通し、アルブミンは通さない)の2つです。
  • 細胞膜をはさんだ水の移動は張度で決まり、張度はナトリウムとグルコースで規定されます(BUNは含みません)。
  • 生理食塩水1Lで血管内に残るのは約250mLブドウ糖液1Lなら約83mLです。目的に合わせて輸液を選びましょう。
  • 毛細血管膜をはさんだ水の移動は静水圧膠質浸透圧で決まります(スターリングの法則)。
  • 【発展】アルブミン製剤も、重症患者では膜が壊れているため理論どおりには血管内に残りません
▶ 復習はこちらから:動画はこちら

 

タイトル
輸液製剤の基本を学ぼう【2026年9月Qラボアーカイブセミナーその1】