2026年8月のQラボ、テーマは心電図でした。今回はその総まとめとして、「判読の10ステップ」の復習、「ST上昇と責任血管」の整理、そしてラボメンバーの先生から共有いただいた実際の7症例を、順番に見ていきます。
心電図は、目立つ異常にパッと飛びついてしまいがちな検査ですよね。だからこそ、毎回同じ手順で読む「型」を持っておくと、落ち着いて一つひとつ確認していけます。1回ですべてを覚えきる必要はありませんので、何度も繰り返し読みながら、少しずつ型を身につけていきましょう。
今日の目標
- 判読の10ステップを、順番どおりに自分で言えるようになる
- ST上昇をJ点で判定し、責任血管と対側の変化までセットで読めるようになる
- 7つの症例を通して、「その波形を見たら、誰が何を準備するのか」まで考えられるようになる
1なぜ「10ステップ」で読むのか
心電図の読影では、どうしても目立つ異常に目が奪われてしまいます。けれども、その一枚のなかには、調律・軸・肥大・虚血・電解質など、たくさんの情報が同時に写り込んでいるんですね。
そこで役に立つのが、毎回まったく同じ手順で読むという型です。慣れてくれば30秒ほどでさっと通せるようになりますし、逆に不整脈が激しく出ているときや悩ましいときには、1〜2分かけてじっくり見る、という使い分けもできるようになります。
そして何より大切なのは、この型を通ることで「ここは正常です」と言い切れるようになることです。正常が分かるからこそ、異常が浮かび上がってきます。まずは10項目を、一つずつ復習していきましょう。
2ステップ1〜5:調律から異常Q波まで
RR間隔の大きいマスの数で、1個=300/2個=150/3個=100/4個=75と数えます。RR間隔が不整なときは、6秒間のQRSの数×10で概算しましょう。洞調律の条件は、Ⅰ・Ⅱ誘導でP波が陽性、P波とQRSが1対1、RR間隔が一定の3つです。
見るのはⅠ誘導とaVF誘導だけです。両方とも上向きなら正常軸。Ⅰが上向き・aVFが下向きなら左軸偏位、Ⅰが下向き・aVFが上向きなら右軸偏位になります。
胸部誘導でQRSが下向きから上向きに変わる場所です。正常はV3〜V4のあたり。それより手前(V1・V2寄り)なら反時計回転、V5・V6寄りなら時計回転で、心臓の向きをおおまかに捉えられます。
P波は、先に立ち上がる右房の興奮とあとから続く左房の興奮が合わさった波です。ですから前半が強く出て尖って高いP波になれば右房負荷、後半が目立って幅広い二相性のP波になれば左房負荷を考えます。
正常は0.12〜0.20秒です。大きいマス1個が5mm=0.2秒ですので、P波とQRSの間が大きいマス1個より開いていたら延長=Ⅰ度房室ブロックを疑います。逆にPQ短縮+デルタ波があれば、WPW症候群の波形を疑いましょう。
ステップ⑥は異常Q波です。幅が0.04秒(小さいマス1個)以上、かつ深さがR波の4分の1以上で、下にぐっとえぐれるように出ているものを異常Q波と呼びます。これがあるときは陳旧性心筋梗塞を疑うサインになります。
3ステップ6〜10:QRSからQT時間まで
0.12秒(小さいマス3個)以内がnarrow QRSです。幅広いときは脚ブロック、心室起源の調律、高カリウム血症などを考えます。QRSの高さが大きいときは左室肥大を疑いましょう。QRS終末部のコブはJ波で、目立つときは低体温なども鑑別に挙がります。
上昇ならSTEMI・心膜炎・早期再分極・Brugada型、脚ブロックや左室肥大の二次性変化など。低下なら心内膜下虚血(狭心症)、ジギタリス、低カリウム血症などを考えます。
左右対称の深い陰性Tは虚血を示す危険なT波です。尖って高いT波(hyperacute T)は超急性期心筋梗塞や高カリウム血症で、STが上がるより先に出ることがあります。平坦なTは低カリウム血症や非特異的変化、giant negative Tはくも膜下出血など脳血管疾患で見られます。
心拍数で補正したQTcで評価します。男性450ms・女性460msより長ければ延長です。延長の原因は薬剤性と電解質異常が多く、短縮は高カルシウム血症などで見られます。
STの変化を見たときは、いつもその裏返しを探しにいきましょう。ST上昇を見たら対応する誘導のST低下を、ST低下を見たら対応する誘導のST上昇を確認します。これがreciprocal change(対側変化)です。上昇だけでは迷う症例でも、対側のST低下が揃えば「これは心筋梗塞だ」と判断できるようになります。
QT延長はtorsade de pointes(トルサード・ド・ポワント)につながることがあります。失神や意識消失があった患者さんでは、その裏で危険な不整脈が起きていた可能性がありますので、QTは必ず測っておきましょう。そして延長があれば、中止できる薬剤はないか、補正できる電解質異常はないかという、治療介入が可能な原因を確認していきます。
4ST上昇の読み方 ― まずはJ点から
急性冠症候群(ACS)は、ひとことで言えば冠動脈が詰まりかけて心臓が危ない状態です。このうちSTが上昇するものをSTEMI、そうでないものを非ST上昇型ACS(NSTEMI・不安定狭心症)と呼びます。後者は採血や臨床所見で判断していく部分が大きいので、ここではSTEMIに絞って見ていきましょう。
ST上昇の判定で基準になるのがJ点、つまりQRSとSTのつなぎ目です。ここが基線からどれだけ上下にずれているかを見ます。
ST上昇を判定するときの3つの視点
- J点で測る … 細かい基準が思い出せないときは、1mm以上上がっていたら怪しいかも、と考えるところから始めましょう
- 連続する誘導で見る … 1つの誘導だけでなく、隣り合う誘導でそろって上がっているかを確認します
- 時間軸で見る … 疑わしければ繰り返し記録します。以前の心電図と比べて、下がっていたSTが基線に戻っているだけでも意味のある変化です
なお、V2・V3誘導は正常でも高めに見えることがあり、判定基準そのものが他の誘導と異なります。症状のない健康な男性で、V2・V3が少し上がって見えるだけであれば、早期再分極という正常範囲の変化のことも多いんですね。「J点から1mm」と覚えていると「あれ?」と思う場面が出てきますが、V2・V3はガツンと上がっているもの以外は、まず落ち着いて考えると覚えておくと良いかと思います。
5ST上昇と責任血管 ― どこが詰まっているか
どの誘導が上がっているかが分かると、どの冠動脈が詰まっているか(責任血管)まで推定できます。ここが分かると、救急外来での対応そのものが変わってきます。
Ⅱ・Ⅲ・aVFのST上昇。対側変化はⅠ・aVLのST低下です。
V1〜V4のST上昇。対側変化はⅡ・Ⅲ・aVFのST低下です。
Ⅰ・aVL・V5・V6のST上昇を確認します。
V1〜V3でSTが低下していて、対応するはずのⅡ・Ⅲ・aVFのST上昇が見当たらないときは、後壁梗塞を疑います。背中側に電極を貼ってV7〜V9を評価しましょう。
右冠動脈は洞結節・房室結節・右室を養っています。ですから下壁梗塞では、徐脈や房室ブロック、右室梗塞の合併に注意が必要です。
右室梗塞を合併している可能性があるため、ニトロは基本的に避けます。また徐脈に備えて、アトロピンや経皮ペーシングの準備も進めておきましょう。右側胸部誘導(V4R)を追加して評価することもあります。この追加記録については施設や循環器の先生によって考え方が異なりますので、「そういうアクションが追加される可能性がある」ということを知っておいてもらえると良いかと思います。
6STEMI以外でSTが上がるとき
STが上がる原因は、心筋梗塞だけではありません。鑑別として、次のようなものを頭に置いておきましょう。
V2・V3などで、下に凸のかたちでSTが上がって見えます。症状のない若年〜中年男性で見られることが多い所見です。
責任血管の分布と関係なく広範囲にSTが上がるのが特徴です。
特徴的な波形のかたちを、まずは形として覚えていきましょう。
脚ブロックや左室肥大でも、STが上がって見えることがあります。脚ブロックの向きと一致するかで判断しましょう。
くも膜下出血や強いストレスが契機になることがあります。このときもSTが上がって見えます。
判断の決め手になるのは、やはり時間経過での変化と対側変化があるかどうかです。ここを丁寧に見ていきましょう。
7【症例1】動悸が止まったと思ったら
病歴
- 70代女性。数日前から動悸を自覚し外来を受診
- 受付での問診中に気が遠くなり、その場でしゃがみ込んだ
- 来院時のモニターはHR約150の頻脈
一見すると頻脈の患者さんです。では、失神の原因はどこにあるのでしょうか。心電図を10ステップで読んでいきましょう。
10ステップで読む
- ① 心拍数・調律:自動計測は56と出ますが、自動計測を完全に信用しないのが大切です。マス法で見ると、最も長く開いているところは大きいマスで約24個=約5秒のポーズがあります
- ② 電気軸:Ⅰ誘導もaVF誘導も上向きで正常軸
- ③ 移行帯:R波と重なって分かりにくいものの、V3〜V4あたり
- ④ P波:胸部誘導に一定のギザギザした波があり、これは粗動波(心房粗動)です
- ⑤ PQ間隔:心房粗動のため測定不能
- ⑥ 異常Q波:なし
- ⑦ QRS幅:狭い
- ⑧ ST:上昇なし
- ⑨ T波:V4・V5あたりに陰性T(いわゆるストレイン型で、左室肥大に伴う所見のような波形)
- ⑩ QT時間:QTc 505msとやや長く見えますが、この数字だけでは信頼性に欠けます
10項目のうち、ギザギザの粗動波と長いポーズ以外は、ほぼ正常と言える心電図です。つまりこの症例は、頻脈が止まったあとに洞結節が動き出せず、長いポーズが出てしまったことが本態で、そのポーズと失神のタイミングがおそらく一致していると考えられます。これが徐脈頻脈症候群、洞不全症候群のいわゆるⅢ型にあたります。
リスクと対応
- リスク:アダムス・ストークス発作、失神による転倒・頭部外傷。ポーズが長ければ心停止に至ることもあります
- 動悸の患者さんが失神したら、心臓に何かあるのではないかと疑いましょう
- レートコントロールを始める前に、ポーズの有無をモニターで確認します
- 症候性の洞不全症候群であれば、ペースメーカーの適応を循環器の先生と相談していきます
- 多職種で共有したいのは、モニターを外さないことと失神の瞬間の記録を残すことです
8【症例2】ふらついて立てない
病歴
- 80歳男性。朝から強い倦怠感とふらつきがあり、ご家族が救急要請
- 来院時、顔面蒼白・冷汗あり
- バイタルはHR 32と高度の徐脈
この患者さんを目の前にしたとき、最初に準備するものは何でしょうか。それを考えながら心電図を読んでいきましょう。
10ステップで読む
- ① 心拍数・調律:大きいマスで9個ありますのでHR約31。高度徐脈です。RR間隔は一定です
- ② 電気軸:Ⅰ誘導で陰性ですので右軸偏位
- ③ 移行帯:脚ブロック様で分かりにくいため、判定困難としてかまいません
- ④ P波:Ⅰ誘導で上向き、Ⅱ誘導で上向きと規則的に洞調律で出ています。しかしQRSとつながっていません
- ⑤ PQ間隔:一定していません。徐々に延びて脱落するわけでもなく、まったくバラバラです → 完全房室ブロック
- ⑥ 異常Q波:明らかなものはなし
- ⑦ QRS幅:幅広く、右脚ブロック様。P波に伴っていないので補充調律と考えられます
- ⑧⑨ ST・T波:幅広いQRSに伴う二次性変化で、有意なST上昇・低下はなさそうです
- ⑩ QT時間:617msと長く見えますが、徐脈ですので補正するとQTc 445msで上限程度です
これがこの心電図の読みのポイントです。P波もQRSもそれぞれ規則的に出ているのに、互いの関係が成立していない=房室解離。そしてQRS幅が広いことから、補充調律が心室から出ていると分かります。HR30でかろうじて拍動している状態です。
リスクと対応
- リスク:失神、アダムス・ストークス発作。補充調律が出なくなれば心停止に至ります
- 治療:アトロピンを投与し、効果がなければ経皮ペーシング。アドレナリンやドパミンの持続投与も選択肢になります
- 徐脈の患者さんを見たら、まずパッドを貼る ― この初期動作を多職種で共有しておきましょう
- 薬が効かない徐脈があることを知り、ペーシングの準備を前倒しで進めることが大切です
9【症例3】健診で引っかかっただけのはずが
病歴
- 40代男性。健診の心電図で異常を指摘され紹介受診
- 自覚症状はなく、見た目はまったく元気そのもの
- よく聞いてみると、半年前に一度、失神の既往があった
- 精査のためモニター管理としていた
元気な方の心電図です。けれども、危険なサインはどこにあるのでしょうか。
10ステップで読む
- ① 心拍数・調律:自動計測でHR78。RR間隔はバラバラで不整
- ② 電気軸:Ⅰ誘導で上向き、aVF誘導で上向きですので正常軸
- ③ 移行帯:V3〜V4あたり
- ④ P波:P波がありません → 心房細動です
- ⑤ PQ間隔:確認できません
- ⑥ 異常Q波:なし
- ⑦ QRS幅:狭い。ただしⅡ・Ⅲ・aVF誘導とV4〜V6誘導で、QRSの終末部に小さなノッチ/スラーが見えます
- ⑧⑨ ST・T波:J点が少し上がっていて、T波も高め。電解質はどうかな、というところも気になります
- ⑩ QT時間:QTcは正常
このノッチ・スラーがJ波で、いわゆる早期再分極パターンです。健常者にも見られる所見ですが、失神歴や突然死の家族歴があれば「J波症候群」として扱います。特発性心室細動の基質になりうる、危険な心電図です。
この患者さんは、その後モニター管理中に突然反応が消失し、モニターは心室細動となりました。すぐに応援を要請し、胸骨圧迫を開始、除細動器が来たらショックを行います。無症状の所見が、そのまま致死性不整脈につながることがあるという症例です。電気的ストームになれば、抗不整脈薬(アミオダロンなど)と鎮静も検討し、準備しておきます。この場合はICDの適応にもなっていきます。
ここが大切です
- 心電図だけでなく、病歴とセットで危険度が決まります
- 健診で引っかかった人にこそ、失神歴と家族歴を聞きましょう
- 夜間や安静時の症状も重要な手がかりになります
10【症例4】目の前で倒れた
病歴
- 60代男性。外来の待合で突然胸を押さえて崩れ落ちた
- 呼びかけに反応なし、死戦期呼吸
- 自発呼吸なし、換気なし、脈は触知せず、反応なし
この場面では、波形を確定させる前に、やるべきことがあります。たまたま記録された心電図を見てみると、基線が不規則に揺れているだけで、P波・QRS波・T波のいずれも同定できません。心室細動です。
反応なし・呼吸なし・脈なしで行動してください。もう心電図を取っている場合ではありません。迷ったら質の高いCPRと早期除細動を進めていきます。無脈なら、波形の議論より先に胸骨圧迫、そして除細動器が届き次第ショックです。
多職種で共有しておきたいこと
- 機械的に何か数値が出ていても、それを鵜呑みにしない。まず患者さんを見ましょう
- 体動・震え・電極不良など、アーチファクトがVF様の波形を作ることもあります。だからこそ患者さんを見ることが大切です
- アラームが鳴ったら、電極を直す前にまず患者さんを見に行く
- 最初の3分の分担(胸骨圧迫・除細動器・気道・記録・家族対応)を、あらかじめ決めておきましょう
- 背景に急性冠症候群があることも少なくありません
11【症例5】激しい動悸と胸部不快感
病歴
- 60代男性。激しい動悸と胸部不快感で救急要請
- 意識は清明だが不穏で冷汗あり。「気持ち悪い」と訴え続けている
- HR約170の頻脈
安定しているのか、不安定なのか。12誘導を取る余裕があるのか。まずそこを考える場面ですね。今回は記録できた心電図を、10ステップで見ていきましょう。
10ステップで読む
- ① 心拍数・調律:HR 174の頻拍。RR間隔はほぼ一定で、規則的な頻拍です
- ② 電気軸:正常軸
- ③ 移行帯:V4〜V5あたり
- ④ P波:はっきり分かりません。ここでは房室解離を探しにいきます。房室解離があればVTと判断できます
- ⑤ PQ間隔:測定不能
- ⑥ 異常Q波:判定困難
- ⑦ QRS幅:ぱっと見て幅が広い。波形は1拍ごとに揃っていて単形性です
- ⑧⑨ ST・T波:T波はQRSと逆向き。幅が広いので、逆向きになるのが自然です
- ⑩ QT時間:QTc 538msですが、頻拍中の値はあくまで参考値です
変行伝導を伴うSVTでも幅広いQRSになりますので、鑑別は簡単ではありません。だからこそ、まずVTとして扱うのが大切です。判断の軸になるのは波形の細かい議論ではなく、脈・血圧・意識といった血行動態です。
脈と血行動態で、次の一手が決まります
- 無脈 … 胸骨圧迫と除細動
- 脈あり・不安定 … 同期下カルディオバージョン
- 脈あり・安定 … 抗不整脈薬(アミオダロンなど)と原因検索を並行して進めます
- 背景 … 虚血や心筋症などの器質的心疾患、電解質異常、薬剤を並行して検索します
- 多職種では、鎮静とカルディオバージョンの準備を先に始めておくことが大切です
12【症例6】頻拍だからアデノシン、で大丈夫?
病歴
- 30代男性。突然の激しい動悸で来院
- 意識は清明。血圧は90前後
- モニターでは不規則で幅広いQRSの頻拍、HR180前後
- 以前の心電図で指摘された所見があったとのこと
「頻拍だからアデノシン」で本当に大丈夫でしょうか。RR間隔とQRS幅に注目しながら読んでいきましょう。
10ステップで読む
- ① 心拍数・調律:平均するとHR 171ですが、RR間隔はバラバラです。狭いところではHR260、伸びたところでは110程度と大きくばらついています。ここが症例5との決定的な違いです
- ② 電気軸:Ⅰ誘導で上向き、aVFで下向きですので左軸偏位(−35°)
- ③ 移行帯:V1〜V2でR波がひっくり返ります
- ④ P波:見当たりません → 心房細動
- ⑤ PQ間隔:測定不能
- ⑥ 異常Q波:なし。Ⅲ誘導にQ波かなと思う部分がありますが、小さなノッチがあるのでQ波ではありません
- ⑦ QRS幅:195msと非常に幅広い。しかもRR間隔が伸びたところでは幅と形が微妙に変わっています ― これは副伝導路を通った拍と房室結節を通った拍が混ざっているためです
- ⑧⑨ ST・T波:二次性変化で、T波はQRSと逆向き
- ⑩ QT時間:QTc 625msと延長していますが、頻拍中の意味づけは困難です
この3つが揃ったら、pre-excited AF(副伝導路を介した心房細動)を思い出してください。少し前までは偽性心室頻拍(pseudo VT)と呼ばれていたもので、正体は顕性WPW症候群に心房細動が合併した状態です。
アデノシン、カルシウム拮抗薬、ジギタリス、β遮断薬、アミオダロン静注は使いません。房室結節を止めてしまうと、電気が副伝導路に集中し、心室への伝導が極端に速くなってVF化してしまいます。よかれと思って使った薬が、VFの引き金になってしまうんですね。
対応は、安定していればプロカインアミド、不安定であれば同期下カルディオバージョンです。
なぜこうなるのか、機序も押さえておきましょう。ふだんは房室結節と副伝導路の両方を通って心室に電気が届いています。房室結節には減速装置が働くので、あまりに速い刺激はすべては通しません。ところが副伝導路は細い電線のようなもので、届いた刺激をそのまま通してしまいます。ですから心房細動のように不規則な電気が大量に届くと、そのほとんどが心室に伝わり、極端な頻拍になってしまうわけです。
この患者さんの洞調律時の心電図では、PQ間隔の短縮とデルタ波がはっきり見られました。心電図検定的に言えば、V1誘導にR波がなくQSパターンになっており、これはC型と答える問題として出題されるところです(心電図検定2級レベル)。
この症例のポイント
- 不規則で幅の広い頻拍を見たら、アデノシンに手を伸ばさない
- QRSが広いため、自動診断で「脚ブロック」と誤って表示されることがあります
- 極端な頻拍による血行動態の破綻も起こり得ます
- 以前の心電図でデルタ波がないかを確認しましょう。過去の心電図は非常に大切です
- ご本人・ご家族に、これまでの失神歴を確認することも大切です
13【症例7】弱った心臓から生まれるVT
病歴
- 70代男性。以前にCABG(冠動脈バイパス術)を受けている
- EF 25〜30%の低心機能
- 肺炎を契機にICU管理中
- ベッドサイドエコーを施行中、画面上で心室の動きが頻拍性に一変した
- 脈ありの持続性VT。血圧は100で低下傾向、意識は保たれている
心電図は、幅の広い規則的なQRSの頻拍です。では、なぜこの心臓はVTを起こしたのでしょうか。エコーで何を見るかを考えながら、心臓そのものを覗いてみましょう。
ベッドサイドエコーで見えたこと
- VT中の画像では、ほとんど拍出ができていないような動き
- 傍胸骨短軸像では、もともとEFが低く、収縮時にも壁の厚みがあまり増していない
- 心尖部からの画像でも、全体的に壁運動が低下している(asynergy)
- 三腔像では、左室拡大により腱索が引っ張られ、僧帽弁が閉じきらない状態
- そこから重症の機能性僧帽弁逆流(MR)が示唆されました
EFが悪く、左室が拡大し、器質的な変化がある心臓は、そこがフォーカスとなってVTを起こすことがあります。この患者さんは意識が保たれ、しっかり会話もできて「動悸はしていない」とおっしゃっていましたが、血行動態はすぐに悪化し得ますし、無脈性VTへ移行する可能性も非常に高い状態です。致死性不整脈は、こうした弱った心臓から生まれてくるんですね。
なお、この症例で見られたMRは腱索断裂によるものではありません。左室が拡大し、後壁の壁運動も低下していることで腱索がぴんと引っ張られ、弁が閉じきらなくなった二次性(機能性)のMRです。入院の契機も感染症による心不全の増悪であり、感染性心内膜炎ではありませんでした。心房細動で心房が大きくなって機能性MRになるなど、機序はさまざまですので、どの機序で逆流が起きているのかまで考えられると理解が深まります。
ベッドサイドエコーの強み
- 医師・看護師・技師が同じ画面を一緒に見られる
- 脈の有無、心嚢液、収縮の評価は、そのまま心停止の判断にも使えます
- 画像を残しておくと、あとからみんなで共覧して学べます。役割分担やシミュレーションにもつながります
147症例の早見表
徐脈頻脈症候群。頻脈停止後の約5秒のポーズで失神。レートコントロール前にポーズの確認を。
房室解離+幅広い補充調律(心室起源)でHR31。徐脈を見たら、まずパッド。
QRS終末部のノッチ/スラー。失神歴・突然死の家族歴があれば危険。そのまま心室細動へ。
基線が不規則に揺れ、QRSは同定できず。波形の議論より先に胸骨圧迫。
幅広く規則的な頻拍。細かい鑑別より、まずVTとして扱う。
速い・不規則・幅広い。房室結節抑制薬は禁忌。安定ならプロカインアミド。
器質的に弱った心臓が背景。無脈性VTへの移行に備えた準備を。
15波形の先にある「患者さん」を見る
最後に、今回いちばん大切にしたい視点をお伝えします。心電図は「電気」しか見ていません。ですから、心電図だけで患者さんを判断・診断できないことは、往々にしてあります。
たとえばPEA(無脈性電気活動)では、心電図波形だけでは心停止かどうか分からないことがよくあります。明らかな徐脈や補充調律なら怪しいと気づけるかもしれませんが、そうでないPEAももちろんあります。だからこそ、診察が大切なんですね。
そして、心電図だけでは決めきれない場面 ― たとえば幅広いQRS頻拍のVTとSVTの鑑別のようなところでは、オーバートリアージを基本に動くのが安全です。「STが上がっているか迷ったら、上がっているものとしてSTEMIとして対応する」という考え方も同じですね。
今日の持ち帰りポイント
- 心電図は毎回10ステップで読む。見逃しがなくなり、「ここは正常です」と言えることが土台になります
- 特殊な波形は、調律・QRS・STに現れやすいところです
- ST上昇はJ点で見て、場所と対側変化をセットで読みます。下壁ならRCA、右室梗塞に注意します
- 幅の広いQRS頻拍はまずVT。不規則ならpre-excited AFも思い出しましょう
- 薬が効かない徐脈があります。ペーシングの準備は前倒しで進めましょう
- 所見の危険度は、病歴とセットで決まります。失神歴と家族歴は必ず確認しましょう
- 波形の名前を当てて終わりではなく、誰が何を準備するのかまで決めて、治療につなげていきましょう
まとめ
- 心電図は判読の10ステップを毎回同じ順番で通し、正常と言い切れるところを増やしていきましょう。
- ST上昇はJ点から1mmを目安に、連続する誘導と対側変化(reciprocal change)まで確認します。V2・V3は基準が異なる点にも注意しましょう。
- 責任血管はRCA=Ⅱ・Ⅲ・aVF/LAD=V1〜V4/LCX=Ⅰ・aVL・V5・V6。V1〜V3のST低下では後壁梗塞を疑い、V7〜V9を追加します。
- 下壁のSTEMIでは右室梗塞・徐脈・房室ブロックに注意し、ニトロを避け、アトロピンや経皮ペーシングを準備します。
- 7症例を通して見えてきたのは、波形の名前より「次の一手」が大切だということです。徐脈ならパッド、無脈なら胸骨圧迫、pre-excited AFなら房室結節抑制薬を避ける、というアクションにつなげましょう。
- 心電図は電気しか見ていません。最後は必ず患者さんを見て、病歴とセットで危険度を判断していきましょう。





