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中毒患者における心電図診断と治療を学ぼう【2026年8月Qラボアーカイブセミナーその3】

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今回のテーマは、中毒患者さんにおける心電図です。中毒を疑うとき、じつは心電図はとても頼れる味方になってくれます。血液の薬物検査のようにピンポイントで薬剤名まで分かるわけではありませんが、心電図の変化を手がかりにすれば、原因となる薬物をある程度まで絞り込むことができるんです。
今回見ていくポイントは、「QRS幅」と「QT時間」の2つだけ。この2つの物差しを持ち帰れば、中毒の心電図はぐっと読みやすくなりますよ。一緒に見ていきましょう。

今日の目標

  • 中毒の心電図で見るべき2つのポイント(QRS幅・QT時間)を言えるようになる
  • QRS幅が広いとき・QT時間が長いときに、何を準備し、何を確認するかが分かる
  • 心電図変化から、疑わしい薬物をざっくり絞り込めるようになる

1中毒の心電図で見るのは、たった2つ

中毒診療における心電図は、しばしば “poor man’s tox screen”(もう一つのトキシスクリーン) と呼ばれます。
薬物検査のようにピタリと薬剤名を当てられるわけではありませんが、心電図に変化があること自体が、原因を特定するための大きな一助になってくれます。
そして、ここで見るべきポイントはたった2つ。「QRS幅」と「QT時間」です。まずはこの2つに注目するところから始めていきましょう。

① QRS幅
広がっていたらナトリウム(Na)チャネル遮断を疑います。100ms以上メイロンを準備します。
② QT時間
延びていたらカリウム(K)チャネル遮断を考えます。500ms以上電解質を確認・補正します。

2QRS幅の拡大:ナトリウムチャネル遮断を疑う

まずはQRS幅からです。QRS幅が広い場合には、ナトリウムチャネルの遮断を疑います。
ナトリウムの流入はQRS波の立ち上がりに関わっていますので、ここが遮断されると、心電図の立ち上がりがなだらかになり、幅が広がってくるんですね。
QRS拡大を伴う中毒では、ナトリウムを補う メイロン(炭酸水素ナトリウム) が第一選択になります。メイロンにはナトリウムが多く含まれていて、細胞内外のナトリウム濃度を上げることが目的です。投与量の目安は、点滴1本の半分ほどと覚えておくと良いですよ。

⚠ QRS幅 100ms 以上ならメイロンを準備

QRS幅が100ミリ秒(ms)以上に広がっているのを見たら、メイロンの準備を始めましょう。これが、中毒の心電図における最初の分かれ道になります。

代表例としてよく挙がるのが、三環系抗うつ薬中毒です。薬剤としてはアミトリプチリンクロミプラミンなどが当たります。
さまざまな作用がありますが、このうちナトリウムチャネルを遮断することで、QRS拡大心室頻拍が認められます。

三環系抗うつ薬中毒でのメイロンの役割(2つ)

  • ナトリウムの負荷 … 不足したナトリウムを補い、遮断されたチャネルの影響を打ち消していきます
  • アルカレミアへ傾ける … 重炭酸によりアルカリ側に傾くと、三環系抗うつ薬とタンパクの結合が保たれ、薬理作用そのものが減ります

適応となるのは、心電図変化がある場合循環動態が不安定な場合です。所見が改善するまで、5分ごとに投与を繰り返します

実際の心電図で見えるサイン(三環系抗うつ薬中毒)

  • QRS幅の拡大(II・III・aVF誘導で見やすいことが多いです)
  • I 誘導の深いS波
  • aVR 誘導の高いR波

3QT時間の延長:カリウムチャネル遮断を考える

2つ目はQT時間です。QT時間の延長を見たら、カリウムチャネルの遮断を考えます。
カリウムは心筋の再分極に関わっていて、ここが遮断されるとT波が遅れて見えるようになります。これがすなわち、QT時間の延長というわけですね。

⚠ QT時間 500ms 以上なら電解質異常を確認・補正

QT延長を見たら、まず電解質異常を考えます。カリウムはもちろん、マグネシウムカルシウムもカリウムの動態に関わるのでチェックしましょう。とくに徐脈や低体温がある場合には、電解質の補正が必要です。

なかでも トルサード・ド・ポワント(TdP) は緊急性が高い不整脈です。見つけたら 硫酸マグネシウムを投与 します。

4心電図変化から薬物を絞り込む

ここまでの2つの物差しを使って、どんな薬物が心電図異常をきたしやすいのかを整理しておきましょう。
心電図変化からある程度の薬物を絞り込み、あとは他の症状や、処方されていた薬歴などから原因物質を推定していきます。

QRS幅の拡大(Naチャネル遮断)
三環系抗うつ薬ジフェンヒドラミンコカイン など
QT時間の延長(Kチャネル遮断)
ジソピラミドハロペリドールマクロライド系抗菌薬 など

5【発展】特徴的な心電図変化をきたす中毒

ここからは少し発展的な内容として、特徴的な心電図変化をきたすものを2つご紹介します。頭の片隅に入れておいてもらえると嬉しいです。

ジギタリス(ジゴキシン)中毒
盆状(お盆型)のST低下というキーワードで有名です。心電図変化は多彩で、頻脈房室伝導障害、さまざまなST-T変化が現れます。
ST変化を伴う中毒
ST変化=心筋梗塞(虚血)を思い浮かべますが、中毒でも心筋虚血をきたすものがあります。中毒であってもST変化を見に行くことが大切です。

中毒でST変化が起こる主な機序

  • 冠動脈の攣縮 … コカイン、アンフェタミン など
  • 心筋・組織の低酸素 … 一酸化炭素(CO)中毒、シアン化水素中毒 など
  • たこつぼ型心筋症 … カテコラミンが過剰になるような中毒 など

一例として、一酸化炭素中毒の心電図では、胸部誘導 V2〜V4 の ST が上昇 していることがあります。「ST変化をきたす中毒もある」ということを、ぜひ覚えておいてくださいね。

まとめ

  • 中毒の心電図で見るべきは、QRS幅QT時間の2つです。
  • QRS幅の拡大(100ms以上)では、ナトリウムチャネル遮断を疑い、メイロンを準備しましょう。所見が改善するまで5分ごとに反復します。
  • QT時間の延長(500ms以上)では、カリウムチャネル遮断を考え、電解質の異常を確認して補正しましょう。TdPには硫酸マグネシウムを投与します。
  • 心電図変化から薬物をざっくり絞り込み、症状や薬歴と合わせて原因物質を推定していきましょう。
  • 【発展】ジギタリス中毒の盆状ST低下、そしてST変化をきたす中毒があることも、頭の片隅に置いておきましょう。
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