8月からは、いよいよ心電図の勉強に入っていきます。救急外来や救急診療において、切っても切り離せないのが「心電図」という検査ですよね。
このセミナーを聞いていただくことで、心電図の基本波形のことや、見落とし・見逃しを少なくする読み方の「型」が身につきます。
今回はまず全体像をつかむのが目的です。1回ですべてを覚えきる必要はありませんので、何度も繰り返し聞きながら、少しずつ型を身につけていきましょう。
今日の目標
- 心電図の基本波形(P・QRS・ST・T)の意味を理解する
- 10ステップの読み方の「型」にそって、系統的に心電図を読めるようになる
- 緊急で対応が必要な波形(VT/VF、STEMI など)に気づけるようになる
0まずは「共通言語」から
ステップを学んでいく前に、心電図を語るうえでの「共通言語」を押さえておきましょう。何度も何度も出てくるのが、P波・QRS波・ST・T波の4つです。
心房の「ドキン」という収縮
心室の「ドキン」という収縮
再分極。次の収縮への準備
心臓が電気で動いて、それがまた元に戻って、次の電気を促していくイメージをしましょう。
この一連の流れが1枚の波形に描かれている、とまずは理解しましょう。
そしてPQ間隔・QRS幅・QT幅など、それぞれの「長さ(時間)」を基準と比べながら読んでいくことになります。
心電図は、こうした基本のパーツに分かれているんだよ、というところを最初に押さえておきましょう。
1心拍数(レート)
心拍数は、1分間に心拍が何回あるかを表します。波形のマス目を使って計算できます。
正常はだいたい50〜100に収まり、スポーツをされる方は徐脈気味、100近くになると頻脈です。
R波とR波の間が何マスかで、心拍数の目安がすぐに分かります。
「300・150・100・75・60・50」と、ブツブツ何度も口に出すと覚えやすいですよ。
| R−R間隔 | 1マス | 2マス | 3マス | 4マス | 5マス | 6マス |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 心拍数(回/分) | 300 | 150 | 100 | 75 | 60 | 50 |
結局は「300 ÷ マスの数」を計算しているだけです。リズムが不整なとき(心房細動など)は、
6秒間にR波が何個あるかを数えて掛け算する方法が使いやすいので、こちらも覚えておきましょう。
2調律(リズム・洞調律の判定)
まずはRR間隔が一定かどうかを確認しましょう。よく言う「サイナス(洞調律)」ですが、実はきちんと定義すると、意外と手ごわいんです。
洞調律(サイナス)の条件
- P波が I誘導=+、II誘導=+、aVR=−
- RR間隔が一定
- PとQRSが1対1で存在する
定義を深く考えすぎると「心電図って難しいな…」となってしまいます。端的には、
「RR間隔が一定で、PとQRSがしっかり出ている」と思えれば、まず問題ないことが多いです。
一方でRRが不整なときは、心房細動・心房粗動・二度房室ブロックなどの異常を疑いましょう。
調律のなかには、緊急ペーシングが必要なものもあります。リズムを見るだけで「緊急で介入が必要かどうか」に気づけるので、とても大切なステップです。
不整脈には頻脈のものも徐脈のものもありますが、まず覚えておきたいのがVT(心室頻拍)とVF(心室細動)です。
パルスレスVT(脈なしVT)とVFは心停止を意味しますので、ただちに除細動・心肺蘇生が必要になります。
3電気軸
電気軸は、I誘導とaVF誘導のQRSの向き(+か−か)の組み合わせで判断します。
I誘導・aVF誘導の符号で読む
- I=+ かつ aVF=+ … 正常軸
- I=+ かつ aVF=− … 左軸偏位
- I=− かつ aVF=+ … 右軸偏位
軸偏位が何を意味するのかを一つひとつ理解しようとすると本当に大変なので、まずは
「IとaVFの符号の組み合わせで、左軸か右軸かを読む」という型だけ押さえておきましょう。詳しい意味は、今後じっくり学んでいきます。
4移行帯
V1〜V6のQRSが、マイナスからプラスへ入れ替わる場所が「移行帯」です。多くの場合はV3〜V4にあります。
移行帯の位置
- 正常:V3〜V4で移行する
- 早く移行する … 反時計回転
- V5〜V6で移行する … 時計回転
これが何を意味するかも、後でしっかり学んでいきます。まずは「移行帯を見つけて、反時計回転か時計回転かを判断する」ところまでできればOKです。
5P波の異常
P波は心房を反映する波形でしたね。心房に負荷がかかると、少し形が変わってきます。
P波の形で心房負荷を評価
- 左心房負荷 … 二峰性のP波(僧帽性P波)
- 右心房負荷 … II・III・aVFで高いP波(肺性P波)
P波は心房の状態を映してくれるので、こうした心房の評価に使えるんだ、というところを理解しておきましょう。
6PQ間隔
PとQの間(Pの終わり〜QRSの立ち上がり)の幅を見ていきます。延長の目安は0.2秒(約5mm)です。
PQ間隔の見かた
- 延長(0.2秒以上) … 多くは一度房室ブロックを疑う
- 短縮 … WPW症候群など、特徴的な波形・症候群を示すことがある
実際には「PQの間が2mm以上に広がっていないかな」という視点で見ていくことが多いです。
7異常Q波
異常Q波の定義は、幅が1mm以上あって、Rと比べて下にえぐれていることです。
異常Q波は心筋梗塞の既往を意味します。新規の異常Q波やST上昇があるときは、
背景に急性心筋梗塞があるのではないかな、と考えるようにしましょう。
8QRSの異常
ここでは、まずQRSの幅を見ることが多いです。3mm以内に収まっていれば正常ですよ。
QRSで疑うもの
- 左室肥大 … V1〜V6のQRSがとても高い(左室が肥大している)
- 右脚ブロック … RSR’(V1・V2で「ウサギの耳」のような形)
- 左脚ブロック … QRS幅が広く、ブロックのような波形で長くなる
- 補助所見 … V6でSが深いのも特徴のひとつ
QRS幅が広いときは、この右脚ブロック・左脚ブロックを疑いましょう。脚ブロックの有無から、心疾患があるかどうかのサインが分かります。
たくさん波形を見ていくうちに、だんだん分かるようになってきますので、まずは「こういうものがあるんだな」と眺めていただければ大丈夫です。
9ST
STは、V1〜V6や II・III・aVF など、いろいろな誘導で見ていきます。QRSの後のSとTの間が、基線より高ければST上昇です。
ST上昇を伴う心筋梗塞をSTEMI(ステミ)と呼びます。STEMIがあるときは緊急の治療になることがあります。
STの変化は、救急外来で緊急に治療するかどうかの判断にとても重要です。ST低下を示す病態もあるので、まずは「STが上がっていないかな」を必ず確認しましょう。
10T波・QT間隔
最後は、まずT波の向きを見てみましょう。上向きか、下向きか、というところです。
T波の異常
- 陰性T(下向き) … 虚血・心筋症・脳疾患(SAHなど)。左右対称で深い陰性Tがあるときは急性冠症候群を疑う
- テント状(尖った)T波、平坦なT波にも注意
- 例外 … aVRとV1の陰性Tは正常です
続いてQT間隔です。ざっくりは、R波とR波の間でT波の立ち上がりが真ん中か、それより後ろにあるときは、QT延長を疑います。
「怪しいな」と思ったら、心電図に計算されているQTcを確認しましょう。原因の多くは電解質異常・薬剤性で、先天性のこともあります(短縮も電解質異常のことがあります)。
QT延長は多形性VT(トルサード・ド・ポアンツ)=心停止に移行することがあります。
QTが延長しているときは、薬剤と電解質を必ず見直して、介入することが大切です。
まとめ
- 心電図は「P・QRS・ST・T」という共通言語と、それぞれの「長さ(時間)」を基準に読んでいきます。
- 心拍数は「300 ÷ マスの数」。不整なときは6秒間のR波の数×10で見ます。
- 洞調律は「RR一定+PとQRSが1対1」がまず基本。RR不整や緊急ペーシングが必要なリズムに注意します。
- VT/VF、そしてSTEMIなど、緊急で対応が必要な波形に気づけることがとても大切です。
- 電気軸・移行帯・P波・PQ・異常Q波・QRS・ST・T波・QTを、10ステップの「型」で順番に見ていきましょう。
- 1回で全部を理解しきるのは難しいので、繰り返し聞いて、少しずつ型を身につけていきましょう。





