Qラボ

緊張性気胸の診断と治療を学ぼう【2026年6月qラボアーカイブセミナーその3】

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📚 目次(クリックで該当箇所へジャンプ)

【導入】

【どう見抜くか】

【どう介入するか】

【まとめ】


0:00第3回テーマ:緊張性気胸による閉塞性ショック

2026年6月のQラボは、ショックをテーマに各論で掘り下げています。第3回となる今回は、閉塞性ショックを取り上げます。閉塞性ショックは病態・原因によって治療方針が大きく異なりますが、今回はその中でも緊張性気胸にフォーカスします。じつは先日、当直中に「気胸にショックを合併していて、これは緊張性気胸だろう」という症例がやってきて、緊急でドレナージをしました。あらかじめ「どう診断し、どう介入するか」を頭に入れておくことが本当に大切だと痛感したので、このテーマにしました。いかに迅速に見抜き、ためらわず処置できるかを一緒に整理していきましょう。

💡 今回の到達目標

  • 閉塞性ショックの中で、緊張性気胸を身体所見で見抜けるようになる
  • エコー(eFAST・ラングスライディング)の使いどころと限界を理解する
  • 胸腔穿刺・胸腔ドレナージの適応と、手技の流れを押さえる
  • ドレーン挿入から固定までの実践的なコツを身につける

0:56外傷ショックの復習:出血性9割、非出血性1割

6月第1回の「外傷のショック」でお話ししたとおり、外傷によるショックの多くは出血性ショックです。出血源を確認して早期に止血することが大原則で、その出血源は大きく胸腔内・腹腔内・後腹膜の3つに分けられます。一方で、外傷ショックのおよそ1割は非出血性です。出血源を探しながら、「出血以外のショックではないか」を同時に見抜く必要があります。

📊 外傷ショックの原因を整理する

分類 内容
出血性(約9割) 胸腔内出血/腹腔内出血/後腹膜出血の3つが主な出血源
非出血性(約1割) 心タンポナーデ/緊張性気胸/神経原性ショック(脊髄損傷など)

このうち緊張性気胸は、身体所見でしっかり見抜けるようになることがポイントです。


1:48緊張性気胸とは:BだけでなくCの異常も合併する

緊張性気胸とは、気胸によって B(呼吸)の異常だけでなく、C(循環)の異常も合併する状態のことです。つまり、閉塞性ショックをきたすような気胸を指します。これが診断の大枠になります。

⚠️ 画像を待っていると心停止しうる

レントゲンなどの画像検査を撮る時間を待っていると、その間に心停止してしまうリスクがあります。だからこそ、迅速に身体所見(±少しのエコー)で判断し、胸腔穿刺・胸腔ドレーン留置をその場で意思決定して、すぐに施行しなければなりません。


2:43エコー(eFAST・ラングスライディング)の使いどころと限界

身体所見に加えて、エコーも助けになります。eFAST の流れで腹腔内・胸腔内の液体貯留を確認したうえで、ラングスライディングを見て気胸かどうかまで評価します。肋骨の間に白い線として見える胸膜が、呼吸に合わせて臓側胸膜と壁側胸膜が互いにスライドしている様子があれば「ラングスライディングあり」。この所見があれば、基本的に粗大な気胸はないだろうと判断できます。

📋 ラングスライディングの読み方と注意点

  • ラングスライディングあり:基本的に粗大な気胸はないと判断できる
  • 外傷性気胸の診断における感度・特異度はかなり良好
  • 皮下気腫が強い場合や高度肥満の場合は診断能が落ちるため注意
  • 気胸・無気肺・胸膜の癒着がある場合も判断が悩ましくなる

3:39症例:癒着でラングスライディングが読めないとき

実際に経験した緊張性気胸の患者さんは、COPD があり、さらに肺がんの切除後で胸膜の癒着もある、という状態でした。そのためラングスライディングの判断がとても難しく、あるかないかはっきりしない所見でした。

✅ 最後に決め手になる身体診察

  • 皮下気腫があるかどうか
  • 受傷起点(どこをどうぶつけたか)
  • これらに加えて C の異常があるかどうか

この症例でも、左に皮下気腫があり、ショックも合併しているという身体所見から「やはり気胸だろう」と判断し、緊急でドレナージに踏み切りました。BとCの異常があり、気胸が疑わしいとなれば、ドレナージを急ぐ——サチュレーションが下がったら胸腔ドレーンを入れないといけない時がある、ということを覚えておきましょう。


4:30まず胸腔穿刺:16Gで鎖骨中線・第2肋間から

胸腔ドレーンがすぐに準備できないときは、まず胸腔穿刺をトライします。病院前など時間がない場面でも、ドクターヘリ・ドクターカーでまず穿刺することがあります。

✅ 胸腔穿刺の手順

  • 太い 16ゲージ針に、10mL ほどのシリンジをつけた状態で穿刺する
  • 穿刺部位は 鎖骨中線・第2肋間
  • 気胸があると胸腔内は陽圧になっているため、自分で陰圧をかけなくてもシリンジが押し上げられてくる(内圧上昇のサイン)
  • 内筒を抜くと「シュー」と空気が抜けてくる

5:28胸腔ドレーンの挿入位置:safe triangle を狙う

胸腔ドレーンを入れるときは、穿刺とは位置が変わります。とくに外傷では、腋窩を頂点にして、大胸筋と広背筋の間にできる三角形(safe triangle)をアプローチするイメージを持ちましょう。具体的には、乳頭の高さの中腋窩線、もしくは前腋窩線からアプローチします。

📋 留置の方向:液体は下、空気は上

  • 液体は背側(下方)に溜まりやすい
  • 空気は上方に溜まりやすい
  • 緊張性気胸・気胸でドレナージするときは、空気を抜くために背側上方(肺尖部側)を目指してドレーンを進めるイメージを持つ

6:23挿入手技:肋骨上縁を進め、肋間動静脈を避ける

ドレーン挿入は、実際に手技を経験しないと難しいところですが、ポイントはいくつかあります。まず肋骨は触れると硬いので、その直上を切開するイメージで開けると、肋骨を沿うようにアプローチできます。そのまま曲がりペアンなどで鈍的剥離を進めていきます。肋骨の上縁を触れながら、ペアンの先は開かず閉じたままグッと進めていくのがコツです(体格が大きい方ほど、しっかり進めないと入っていきません)。

⚠️ なぜ肋骨の「上縁」なのか

肋骨の下縁には肋間動静脈が走っています。下からアプローチすると、これらの血管を損傷するリスクがあります。実際に手技で血管を損傷し、止血に難渋した症例も経験しています。救命のために必要な処置であっても、安全に実施することを意識しながら展開しましょう。


7:18胸膜を破る・局所麻酔のコツ

最後に胸膜を破るところは、かなり硬く、局所麻酔をしていても痛みを伴いやすい部分です。ここはペアンの先を閉じたままグッと進めるのがポイントになります。

✅ 局所麻酔をうまく効かせるコツ

  • 針でチクチク刺してみると、肋骨がどこまであるか、どこがスーッと入るかが分かる(=安全に開けてよい場所が分かる)
  • 余裕があれば、少し深めに刺して陰圧をかけながら進め、空気が引けてくる→引けなくなる境目を探す
  • その引けなくなったところで局所麻酔を打つと、痛みのドメインにしっかり効く

8:14指を入れてドレーンを誘導するコツ

展開して深いところまで到達したら、ペアンの先端を開きます。すると「プシュー」と脱気音がかなりします。ただし体格が大きい方では開けたところが埋もれてしまうので、ペアンの走行に沿ってすぐに指を入れるのがコツです。

📋 指を入れっぱなしにして誘導する

  • 指を入れて癒着の有無を確認する
  • 指を抜くと創がまた閉じてしまうので、ドレーンを入れるまで指は入れっぱなしにしておく
  • 右利きなら左手の指を入れた状態にして、その指に沿わせるように右手でドレーン先端を誘導すると入れやすい
  • ドレーンは先端の内筒を抜き、先端を把持して侵入できる状態に準備しておく

9:12留置の確認と固定方法

ドレーンを入れたら、胸腔内に正しく入っているかを確認します。チューブの曇り(フォギング)や、息を吸ったり吐いたりによる曇りの変化、血清・水分などの呼吸性変動があるかを見て、胸腔内に留置できているかを判断します。

💡 固定のこだわり(呼吸器外科の手法)

  • まず刺入部を単結節で1回固定しておく
  • その上で垂直マットレスにして、ぐるぐると巻いていく
  • こうしておくと、抜去時はここを解いて、単結節部に加えてもう1回結紮するだけで創を閉じられる(抜去後に糸をかけ直さなくてよい)
  • 垂直マットレスの糸は別の糸で結んでおくと、切るだけで解けて結び直せる
  • とにかく固定を密にしっかりすることが大事

興味がある方は、こうした固定法までこだわってみると面白いと思います。


まとめ:身体所見で見抜き、ためらわずドレナージ

✨ 今日のポイント

  1. 外傷ショックの1割は非出血性
    • 出血源(胸腔・腹腔・後腹膜)を探しつつ、タンポナーデ・緊張性気胸・神経原性も見抜く
  2. 緊張性気胸=B+Cの異常を合併した気胸
    • 画像を待つと心停止しうる。身体所見(±エコー)で迅速に判断する
  3. エコーは便利、ただし限界もある
    • ラングスライディングありなら粗大な気胸は否定的。皮下気腫・肥満・癒着では読めないことがある
  4. 決め手は身体診察
    • 皮下気腫・受傷起点+Cの異常。BCの異常があり気胸が疑わしければドレナージを急ぐ
  5. 急ぐときはまず胸腔穿刺
    • 16G+シリンジを鎖骨中線・第2肋間へ。陽圧でシリンジが押し上げられてくる
  6. ドレーンは safe triangle から、肋骨上縁を進める
    • 乳頭の高さの中腋窩〜前腋窩線。下縁の肋間動静脈を避けるため必ず上縁を進む
  7. 指で誘導し、確認して、しっかり固定
    • 指は入れっぱなしで誘導。フォギング・呼吸性変動で留置を確認し、固定は密に

🎯 第3回のゴール(再掲)

緊張性気胸を身体所見で見抜き、ためらわずに胸腔ドレナージできるようになる


どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

緊張性気胸は、「画像を待たずに身体所見で見抜き、ためらわずドレナージする」という一点に尽きるのだと思います。エコーは強力な味方ですが、皮下気腫・肥満・癒着では読めないこともある。だからこそ、皮下気腫・受傷起点・Cの異常という身体診察に立ち返ることが大切です。そして、いざ処置となったときに、肋骨上縁・safe triangle・指での誘導・密な固定といった一つひとつのコツが、安全な手技を支えてくれます。
6月はこのあとも、ショックを一つずつ各論で掘り下げていきます。一緒にステップアップしていきましょう。
うちの施設ではこう動いている、ここはちょっと違うんですよね、胸腔ドレーンのこんなコツがある、といった声があれば、ぜひQラボのチャットやマシュマロで聞かせてくださいね。