「先生、あの、Aさんなんですけど…」
緊張して言葉に詰まる。伝えたいことがうまく出てこない。
「で、何が言いたいの?」と言われて、頭が真っ白になる。
そんな経験、ありませんか?
報告が苦手な理由
新人看護師さんや研修医1年目の皆さんにとって、上級医や先輩への報告は緊張する場面の一つだと思います(1)。
特に急変しそうな患者さんについて報告するとき、焦りもあって、何から伝えればいいか分からなくなりますよね。
⚠️ よくある報告の失敗パターン
- 時系列で長々と話す:「朝は〇〇で、その後××になって…」
- 結論が分からない:「で、結局どうしてほしいの?」
- 情報が飛び飛び:「あ、あとバイタルは…えっと…」
- 緊急性が伝わらない:急いでいるのに伝わらない
でも、これは「報告が下手」なのではなく、報告の型を知らないだけなんです(1,2)。
SBARとは
そこで役立つのが、SBAR(エスバー)という報告の型です(1,2,3)。
📋 SBARとは
医療現場での簡潔で正確なコミュニケーションのために開発されたフレームワーク。
もともとは米国海軍の潜水艦で使われていた手法を、医療に応用したものです(1)。
💡 SBARの構成
Situation(状況)
Background(背景)
Assessment(評価)
Recommendation(提案)
この順番で報告すると、相手に伝わりやすくなります(2)。
SBARの各要素
それぞれの要素で何を伝えるか、具体的に見ていきましょう(1,2,3)。
✅ S:Situation(状況)
「今、何が起きているか」を端的に伝える
- 患者さんの名前、部屋番号
- 今起きている問題(主訴・現象)
- 最初の一言で緊急性が伝わるように
例:「501号室のAさんですが、急に呼吸が苦しくなっています」
💡 B:Background(背景)
「なぜこの患者さんが問題なのか」の文脈を伝える
- 入院理由・診断名
- 関連する既往歴
- 直近の経過(いつから悪化?)
- 長くならないように、関連情報だけ
例:「肺炎で入院中、COPD の既往があります。昨日まではSpO₂ 96%で安定していました」
📋 A:Assessment(評価)
「あなたがどう考えているか」を伝える
- 現在のバイタルサイン
- 身体所見
- あなたの評価・懸念(「〜を心配しています」)
- NEWS2スコアがあれば伝える
例:「現在、呼吸回数28回/分、SpO₂ 89%(酸素3L)、血圧90/60、脈拍120です。NEWS2は9点です。敗血症性ショックを心配しています」
📊 R:Recommendation(提案)
「何をしてほしいか」を明確に伝える
- 診察に来てほしい
- 指示がほしい
- 検査をオーダーしてほしい
- 具体的なリクエストを伝える
例:「すぐに診察に来ていただけますか?」
または:「血液検査と血液培養の指示をいただけますか?」
SBARの実践例
実際にSBARを使った報告の例を見てみましょう(2,3)。
💡 SBAR報告の例
【S:Situation】
「お疲れ様です。3階病棟の〇〇です。
501号室のAさんが、急に呼吸困難を訴えています。」
【B:Background】
「Aさんは肺炎で3日前に入院されました。
COPDの既往があります。
昨日まではSpO₂ 96%で酸素なしで安定していました。」
【A:Assessment】
「現在のバイタルは、
呼吸回数28回/分、SpO₂ 89%(酸素3L投与中)、
血圧90/60、脈拍120、体温38.8℃です。
NEWS2は9点です。敗血症への移行を心配しています。」
【R:Recommendation】
「すぐに診察に来ていただけますか?
血液検査と血液培養も必要かと思います。」
この形で報告すれば、1分以内に必要な情報をすべて伝えられます(1)。
「何かおかしい」も立派な評価
「評価(Assessment)って、何を言えばいいか分からない…」
そう思う方も多いかもしれません。でも、「何かおかしいと感じています」も立派な評価なんです(1,3)。
✅ Assessment(評価)の伝え方
- 「敗血症を心配しています」
- 「出血が続いているように見えます」
- 「意識レベルが下がっている印象です」
- 「何かおかしいと感じています。見に来ていただけますか」
💡 ポイント
診断名が分からなくても大丈夫。「何かおかしい」という直感は、患者さんのそばにいるあなただからこそ感じられる大切な情報です。それを伝えることに意味があります(3)。
SBARを使うコツ
SBARを実践するためのコツをいくつかお伝えします(1,2)。
💡 SBARを上手に使うために
- 報告前にメモする:S・B・A・Rの順に情報を整理
- バイタルは数字で:「ちょっと高め」ではなく「130回/分」
- Situationを最初に:結論から伝える
- Backgroundは短く:関連情報だけ、長くならない
- Recommendationを忘れずに:「来てほしい」「指示がほしい」を明確に
報告を受ける側の視点
実は、報告を受ける側の医師も、SBARで報告してもらえると助かるんです(2,3)。
📋 医師がSBAR報告で助かる理由
- 緊急性がすぐ分かる:最初の一言で判断できる
- 必要な情報が揃っている:追加で聞く必要が減る
- 何をすべきか明確:「来てほしい」のか「指示だけほしい」のか
- 判断しやすい:評価まで伝えてもらえると頭の中が整理される
つまり、SBARはお互いのためのコミュニケーションツールなんです(1)。
練習あるのみ
SBARは、知っているだけでは身につきません。
実際に使ってみることで、自然にできるようになっていきます(2,3)。
📊 練習方法
- 日常の報告でも使ってみる:緊急時だけでなく、定時報告でも
- メモを活用:慣れるまではS・B・A・Rと書いたメモを持っておく
- 振り返る:報告後に「SBARで言えたかな?」と確認
- 先輩の報告を聞く:上手な人の報告を参考に
まとめ
✅ SBAR報告のポイント
- S(Situation):今、何が起きているか→結論から伝える
- B(Background):背景情報→関連情報だけ短く
- A(Assessment):評価→バイタル、所見、あなたの懸念
- R(Recommendation):提案→何をしてほしいか明確に
- 「何かおかしい」も立派な評価:直感を言葉にする勇気を
引用文献
- Institute for Healthcare Improvement. SBAR: Situation-Background-Assessment-Recommendation. Cambridge, MA: IHI; 2019.
- Haig KM, Sutton S, Whittington J. SBAR: a shared mental model for improving communication between clinicians. Jt Comm J Qual Patient Saf. 2006;32(3):167-175.
- Leonard M, Graham S, Bonacum D. The human factor: the critical importance of effective teamwork and communication in providing safe care. Qual Saf Health Care. 2004;13 Suppl 1:i85-90.
どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
SBAR、イメージできましたか?
最初は「S、B、A、Rって何だっけ…」となるかもしれません。でも、10回、20回と使ううちに、自然と口から出てくるようになります。
報告は、練習すれば必ず上手くなります。「何かおかしい」と感じたら、勇気を持ってSBARで伝えてみてください。その一言が、患者さんの命を救うかもしれません。一緒に頑張りましょう。





