学習

多職種で取り組む栄養×リハビリ【みんなで減らそうPICS】

「この患者さん、リハビリどうしますか?」

「栄養はどうしましょう?」

ICUや救急病棟で、こういった質問を受けることがあります。


PICSとは何か

まず、PICS(Post-Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)についてお話しします(1)

PICSは、ICU退室後も続く身体的・認知的・精神的な機能障害のことです。

⚠️ PICSの3つの領域

領域 症状
身体的 筋力低下、歩行障害、日常生活動作の低下
認知的 記憶障害、注意力低下、実行機能障害
精神的 うつ、不安、PTSD

せっかくICUで命を救っても、退院後に「前のように歩けない」「仕事に復帰できない」「気分が落ち込む」という状態になってしまう。

これがPICSです。

✅ PICSを予防・軽減するために最も重要なのは

早期からの栄養療法とリハビリテーションなんです(1)


栄養とリハビリは両輪

リハビリをするには、エネルギーが必要です。

車を走らせるのにガソリンが必要なように、筋肉を動かすためにはカロリーが必要。タンパク質がないと、筋肉は作れません。

逆に、栄養だけ入れても筋肉はつきません。使わない筋肉は萎縮していく。

だから、栄養とリハビリは両輪なんです(2)

📋 栄養とリハビリの関係

栄養だけ リハビリだけ 栄養+リハビリ
筋肉の材料はあるが、使わないので萎縮 エネルギー不足でリハビリ効果が限定的 筋肉が維持・増強される

この考え方を、リハビリテーション栄養と呼びます。


多職種カンファレンスの重要性

急性期の栄養とリハビリは、一人の職種だけでは決められません(3)

💡 それぞれの役割

職種 役割
医師 全身状態の評価、開始基準・中止基準の判断、治療方針の決定
看護師 24時間の観察、ROM訓練、経腸栄養の管理、早期離床の支援
理学療法士 リハビリプログラムの立案・実施、筋力・ADL評価
作業療法士 ADL訓練、認知機能への介入
管理栄養士 栄養状態の評価、必要カロリー・タンパク質の計算、経腸栄養剤の選択
言語聴覚士 嚥下評価、嚥下訓練
薬剤師 薬剤による副作用(筋弛緩、せん妄リスク)の評価

📋 カンファレンスで話し合うこと

  1. 現在の栄養状態:低栄養のリスクは?カロリーは足りてる?
  2. リハビリの進捗:今日はどこまで進んだ?次の目標は?
  3. 阻害因子:リハビリを進められない理由は何か?解決できるか?
  4. 次のゴール:いつまでに何を達成するか?

💡 カンファレンスでの会話例

「今日、リハビリで立位まで行けました」
「でも、栄養が足りてないので、明日からカロリー増やしましょう」
「鎮静を減らせば、もっとリハビリ進むかもしれませんね」
こういった会話が、患者さんの回復を加速させます。


医師が阻害因子にならないために

正直に言います。

僕自身、研修医の頃は「リハビリの阻害因子」になっていたかもしれません。

「状態が悪いから、今日のリハビリは中止で」
「循環が不安定だから、まだ離床は早いでしょう」

こんなことを言っていた時期がありました。

でも、これって本当に正しかったのか?

⚠️ 医師がすべきこと

  • 開始基準・中止基準を具体的に知る
  • 「離床できない理由」を明確にする
  • 理学療法士さんと一緒に判断する
  • 「できない理由」ではなく「どうすればできるか」を考える

医師がリハビリの阻害因子にならないように。そのためにも、ガイドラインを勉強して、基準を知っておくことが大切です(3)


看護師さんの役割

看護師さんは、24時間患者さんのそばにいます。

だから、看護師さんの役割は本当に大きいんです。

✅ 栄養管理において

  • 経腸栄養の投与・管理
  • 胃残量のチェック
  • 嘔吐・下痢の観察
  • リフィーディング症候群の早期発見(電解質異常、不整脈など)

📋 リハビリにおいて

  • ROM訓練(他動的関節運動)
  • 体位変換
  • 早期離床の支援
  • バイタルサインの観察

理学療法士さんがリハビリに来るのは、1日に数十分程度であることが多いでしょう。

それ以外の時間は、看護師さんが患者さんのそばにいます。だから、看護師さんが行うROM訓練や体位変換が、リハビリの大きな部分を占めているんです。

「ちょっと手足を動かすだけ」と思うかもしれません。でも、その積み重ねが筋萎縮を防ぎ、患者さんの回復につながります。


具体的な連携の例

実際の症例を通じて、多職種連携のイメージを持ってもらいましょう。

📊 症例:80歳男性、誤嚥性肺炎

入院時の状況:

  • BMI 18.5(やせ型)
  • アルブミン 2.8 g/dL
  • 誤嚥性肺炎で人工呼吸管理
  • 低栄養リスク高い

📋 Day 1:多職種カンファレンス

職種 発言
医師 「循環は安定してきました。経腸栄養始めたいです」
栄養士 「低栄養リスク高いので、リフィーディングに注意。10 kcal/kg/日から開始して、リン・マグネシウムをモニタリングしましょう」
理学療法士 「ROM訓練から始めます。循環が安定していれば、明日からギャッジアップも」
看護師 「胃残量と電解質、しっかり観察します」

✅ 経過

栄養 リハビリ
Day 3 20 kcal/kg/日に増量 ギャッジアップ30度で30分座位保持
Day 5 目標カロリーの80%に 端座位達成、嚥下評価開始
Day 7 嚥下訓練開始(ゼリーから) 抜管成功、立位訓練開始
Day 14 経口摂取に移行 歩行器で歩行訓練、自宅退院へ

まとめ

✅ 多職種で取り組む栄養×リハビリのポイント

  1. PICSを防ぐ:栄養とリハビリの早期介入が重要
  2. 栄養とリハビリは両輪:どちらか片方だけでは効果が限定的
  3. 多職種カンファレンス:それぞれの専門性を持ち寄って判断
  4. 医師は阻害因子にならない:開始基準・中止基準を知る
  5. 看護師さんの役割は大きい:24時間のケアがリハビリを支える

「リハビリはリハビリに任せる」「栄養は栄養士に任せる」ではなく、みんなで考えて、みんなで決める。

それが、患者さんの社会復帰を支える力になります。


引用文献

  1. Needham DM, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit. Crit Care Med. 2012;40(2):502-509. [PubMed]
  2. Heyland DK, et al. Optimal nutrition during critical illness. Nutrition in Clinical Practice. 2024;39(2):233-246. [PubMed]
  3. 日本集中治療医学会. 重症患者リハビリテーションガイドライン2023.
  4. Wischmeyer PE. Tailoring nutrition therapy to illness and recovery. Crit Care. 2017;21(Suppl 3):316. [PubMed]
  5. van Zanten ARH, et al. Nutrition therapy and critical illness: practical guidance for the ICU. Crit Care. 2019;23:368. [PubMed]

🩺 もっと詳しく学びたい方へ

中西直人先生と一緒に執筆した『みんなの急性期リハビリテーション栄養療法』では、今日お話しした内容をイラスト付きでわかりやすく解説しています。

「みんなの」というタイトルには、多職種でみんなで取り組もうという思いが込められています。

ライン公式アカウント内のオンラインコミュニティ『Qラボ』では、日々こういった疑問や課題を話し合ったり、定期的なレクチャー配信をしています。

ショートレクチャーを無料で配信していますので、もし興味があればぜひ登録してみてくださいね。

公式LINEに登録する


どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

皆さんの施設では、多職種でどのように連携していますか?

栄養とリハビリは、薬の治療と同じように、死亡率を下げる介入です。命に関わる治療なんです。

だからこそ、多職種みんなで、楽しく学んでいきましょう。ぜひ、皆さんの感想や経験を聞かせてください。