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中毒のABCDEアプローチを学ぼう【Qラボセミナー 2026年3月 その1】


0:00急性薬物中毒総論、はじめます

急性薬物中毒総論の第1回、担当は秋田大学医学部附属病院の前野先生です。昨年専門医を取得された卒後7年目の救急医で、関心領域の一つが今回のテーマでもある中毒診療。昨年から多施設で中毒を勉強するコミュニティにも所属されていて、その活動を踏まえてこのセミナーを担当してくださいます。

今週はプライマリーサーベイ、ABCDEアプローチを扱います。中毒診療といっても、重要なことは他の急性疾患と同じ。全身状態の安定化が最優先です。その中で、中毒に特徴的な項目をABCDEに沿って見ていきましょう。


1:20A(Airway)気道:3つの異常を意識する

中毒患者さんの気道では、主に3つの異常が考えられます。

🫁 中毒で起きる気道異常

異常 原因
窒息 嘔吐物や唾液の誤嚥
舌根沈下 鎮静薬による意識低下
気道浮腫 腐食性物質(ハイターなど)の摂取

通常の気道管理と同じく、まずは用手的気道確保。場合によっては経鼻エアウェイも使用します。「中毒だから」と特別に身構える必要はなく、基本に忠実に対応することが大切ですね。


1:50B(Breathing)呼吸:低換気・過換気・酸素化障害

呼吸の異常は大きく3パターンに分けられます。

🌬️ 中毒で起きる呼吸異常と対応

① 低換気

ボツリヌス中毒のように、呼吸に関わる神経や筋肉に作用して呼吸が抑制されるパターンです。人工呼吸器の使用を考慮します。

② 過換気

アシドーシスをきたす中毒(アルコールやメトホルミンなど)で、代償として呼吸数が増加します。アシドーシスに対してはメイロン(炭酸水素ナトリウム)の投与を考慮します。

③ 酸素化障害

一酸化炭素中毒メトヘモグロビン血症が代表的です。酸素投与を行い、メトヘモグロビン血症ではメチレンブルーという拮抗薬を用います。手元にない場合には交換輸血を行うこともあります。

💊 オピオイド中毒にはナロキソン

モルヒネなどのオピオイド中毒ではナロキソンが有効です。ただし半減期が短いので、効果が切れた後の再増悪に注意が必要です。

呼吸様式や顔色の変化、そして先月学んだ血液ガス分析が、ここでも重要になってきますね。


2:48アドバンスド①:サリチル酸中毒で挿管を避けたい理由

できれば挿管を避けたい中毒に、サリチル酸(アスピリン)中毒があります。

⚠️ サリチル酸中毒で挿管が危険な理由

  1. 挿管に伴う鎮静で低換気になる
  2. 低換気により呼吸性アシドーシスが起きる
  3. アシドーシスになるとサリチル酸が組織内に移行しやすくなる
  4. 結果として症状がかえって悪化する

対応:まずメイロンを投与。やむを得ず挿管する場合は、換気量を調節して呼吸性アシドーシスを避けるようにします。


3:47アドバンスド②:中毒でのGCS 8点以下、本当に挿管する?

中毒以外の場面では、GCS 8点以下の高度意識障害で挿管を検討することがありますよね。

でも中毒の場合、挿管しない方が良いかもしれないという報告があります。

📊 中毒と挿管に関する知見

  • 挿管しなかった群の方が予後は変わらず、ICU滞在期間が短縮した
  • ただし対象のほとんどがアルコールやベンゾジアゼピン系だった点に注意

日本の診療でも、これらの中毒では挿管しないことがほとんどだと思います。自信を持って自然気道での経過観察を選択できそうです。


4:43C(Circulation)循環:交感神経 vs 副交感神経

循環の異常は、ざっくり2つのタイプに分けられます。

🫀 中毒での循環異常

タイプ 所見 代表的な原因
交感神経刺激 高血圧・頻脈 覚醒剤、抗コリン薬
副交感神経刺激 低血圧・徐脈 Ca拮抗薬、有機リン

5:20🫀 心電図のチェックポイント

中毒では心電図も重要な情報をくれます。

📋 心電図で見るべき2つのポイント

心電図所見 機序 代表的な原因
QRS幅がワイド Naチャネル遮断 三環系抗うつ薬
QT延長 Kチャネル遮断 抗精神病薬

QT延長しやすい薬剤はかなり多いので、全部覚えるのは難しいですよね。前野先生も「私もすべて覚えられないのでスマホに記憶しています」とのこと。症例に遭遇した際にいつも参照するツールを事前に決めておくと便利です。

6:12💊 循環への介入

✅ 病態ごとの介入

病態 介入
徐脈 アトロピン
低血圧 ノルアドレナリン
Ca拮抗薬中毒 高用量インスリン療法
局所麻酔薬中毒 脂肪乳剤(イントラリポス)
QRS延長 メイロン(炭酸水素ナトリウム)
QT延長 K・Mgなどの電解質補正
重症例 VA-ECMOも適応

7:09D(Disability)意識:抑制と興奮、痙攣の対応

意識レベルの変化も、2つのパターンで考えます。

🧠 中毒での意識変容

パターン 代表的な原因
抑制(意識低下) ベンゾジアゼピン系、エタノール
興奮 覚醒剤、コカイン、カフェイン

興奮性の中毒では痙攣がしばしば見られます。痙攣の第一選択はジアゼパムです。この時に呼吸抑制を伴うことがあるので、バッグバルブマスクをすぐに使えるよう準備しておきましょう。

⚠️ フェニトインの落とし穴

フェニトインにはナトリウムチャネル拮抗作用があります。

もし原因となっている中毒自体がナトリウムチャネルを遮断する薬剤だった場合、症状をさらに悪化させてしまう可能性があります。

原因が不明、もしくはその懸念がある場合には、レベチラセタムミダゾラムなど別の薬剤を選択したいですね。


8:08E(Exposure)体温:高体温と低体温

🌡️ 中毒での体温異常と対応

🔥 高体温

熱産生の増加や放散の低下で起きます。セロトニン症候群抗コリン薬中毒で見られます。

  • まず迅速な冷却
  • 悪性症候群 → ダントロレン
  • セロトニン症候群 → シプロヘプタジン

❄️ 低体温

中枢神経系の抑制や熱放散の亢進で起きます。この場合には復温を行います。


8:50まとめ:中毒でも最優先は全身状態の安定化

✨ 今日のポイント:中毒のABCDEアプローチ

  1. A(気道):窒息・舌根沈下・気道浮腫の3つを意識する
  2. B(呼吸):低換気・過換気・酸素化障害の3パターン
    • サリチル酸中毒では挿管を避けたい(呼吸性アシドーシスで悪化する)
  3. C(循環):交感神経刺激 vs 副交感神経刺激
    • 心電図のQRS幅とQT時間が治療方針を変える
  4. D(意識):抑制 vs 興奮
    • 痙攣にフェニトインを使う時はNaチャネル遮断の重複に注意
  5. E(体温):高体温 → 冷却、低体温 → 復温
    • セロトニン症候群・悪性症候群には特異的な拮抗薬がある

🎯 今日のゴール

中毒でも基本は同じ。ABCDEに沿って全身を評価し、状態を安定化させる

💡 吹き出し|あつし

「中毒というと拮抗薬や特殊な治療に目が行きがちだけど、まずはABCDEアプローチで全身を評価すること。ここが一番大事なんだ。基本に忠実に、その上で中毒に特徴的なポイントを押さえていこう。」


参考文献

  • 2023 AHA Focused Update on the Management of Patients With Cardiac Arrest or Life-Threatening Toxicity Due to Poisoning. Circulation. 2023;148:e149-e184.
  • 日本中毒学会.『新版 急性中毒標準診療ガイド』へるす出版, 2023.
  • Huser C, et al. Critical care management of the patient with pharmaceutical poisoning. Intensive Care Med. 2025;51(12).

どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

中毒の患者さんが来ると、つい「何を飲んだか」「拮抗薬は何か」に意識が向きがちですよね。僕も以前はそうでした。

でも前野先生が強調しているように、中毒でも最優先は他の急性疾患と同じ全身状態の安定化なんです。ABCDEアプローチに沿って、一つ一つ確認していく。その中で、「サリチル酸中毒では挿管に注意」「フェニトインのNaチャネル遮断に注意」といった中毒ならではのポイントを押さえていく。

この型を持っているだけで、中毒の患者さんが来た時の初動がかなり変わると思うんですよね。

次週は中毒の原因検索を扱います。わからない点や質問があれば、ぜひQラボのチャットで聞いてくださいね。

一緒に学び、一緒に悩み、そして一緒に成長していきましょう。