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BEとメイロンの使い方をまとめました【安易な投与が害になる理由】

「BEがマイナスだから、メイロン入れといて」

こんな指示を受けたこと、ありませんか?私も研修医の頃、言われるがままにメイロンを投与していた時期がありました。

でも、あるとき指導医に「なんでメイロン入れたの?」と聞かれて、答えられなかったんです。

BEの意味をちゃんと理解していなかった。メイロンがどう働くかも分かっていなかった。

この記事では、BEの正しい解釈と、メイロン投与が本当に必要な場面について整理していきます。


BEって何を表してる?

BE(Base Excess)は、「代謝性の酸塩基異常がどれくらいあるか」を示す指標です(1,2)

📋 BEの定義

37.0℃、PCO2 40mmHgの血液1Lを、pH 7.40にするために必要な酸の量

  • BE = 0:代謝性の異常なし
  • BE マイナス:代謝性アシドーシス(塩基が不足)
  • BE プラス:代謝性アルカローシス(塩基が過剰)

pHは、CO2と重炭酸(HCO3-)で決まります。Henderson-Hasselbalchの式ですね。

でも、「pHが低い」だけでは、それがCO2のせいなのか、HCO3-不足のせいなのか分かりません。そこでBEが登場します。BEを見れば、「代謝性の要因がどれくらい関与しているか」が分かるんです(1)

💡 臨床のコツ

BEとHCO3-の臨床的な意味合いは、ほぼ同じと考えてOKです。どちらも「代謝性アシドーシスがあるかどうか」を教えてくれます(2)


だけど、BEには限界がある

ここが重要なポイントです。

「BEがマイナスだ」ということは、代謝性アシドーシスの存在を示唆してくれます。でも、原因が何なのかまでは教えてくれないんです(2,3)

⚠️ 代謝性アシドーシスの原因は様々

  • 乳酸アシドーシス:ショック、低酸素
  • ケトアシドーシス:DKA、飢餓
  • 腎不全:不揮発酸の蓄積
  • 中毒:メタノール、エチレングリコール
  • 下痢:HCO3-の喪失

それぞれ対処法が全く違います。BEだけ見ていても、治療方針は立てられません(3)


AGを使おう

そこで便利なのが、AG(アニオンギャップ)です(2,3)

💡 アニオンギャップの計算

AG = Na – Cl – HCO3-(正常値:12±2 mEq/L)

AGは「測定されない陰イオン(Unmeasured anion)」の量を間接的に表しています。

AGが上昇する主な原因は、以下の4つ。頭文字をとって「KULT」と覚えます(3)

✅ AG上昇の原因(KULT)

頭文字 原因 確認方法
K Ketoacidosis(ケトアシドーシス) 血糖、ケトン体
U Uremia(腎不全) BUN、Cr
L Lactic acidosis(乳酸アシドーシス) 乳酸値
T Toxin(中毒) 病歴、浸透圧ギャップ

ほとんどの場合、病歴と乳酸値を測定すれば原因の鑑別ができます。BEだけ見て「アシドーシスがある」で終わらず、AGで原因を追求することが大切です(3)


メイロン、いつ使う?

さて、本題のメイロン(炭酸水素ナトリウム)です。

結論から言うと、ルーチンでのメイロン投与は、かえって悪影響を及ぼすことがあります。安易な投与は避けたいところです(4,5)

⚠️ メイロン投与を考慮する3条件

  1. pH < 7.2で、臓器障害を伴う循環不全がある
  2. 換気が十分に可能(自発呼吸または人工呼吸)
  3. 腎機能障害が高度(AKIN 2-3)

この3つが揃って初めて、メイロン投与を検討します(5)

なぜpH < 7.2なのか?

過剰なアシデミア(pH低下)は循環不全を助長すると言われています。特にpH < 7.2では、カテコラミンを投与しても心拍数の上昇や血管収縮が得られにくくなり、ショックに対する一般的な治療が奏功しなくなることがあります(4)

ただし、このアシデミアではカテコラミンが効きにくいという一見生理学的に正しそうな根拠も、近年では本当に妥当なのかは議論されています。

少なくとも私は、7.0を切ったシチュエーションでカテコラミンの効果をどうしても期待したい切迫した状況(心停止直前)などでなければ、使うシチュエーションはないというのが個人的な見解です。

💡 ただし注意

1990〜1991年の前向き研究では、メイロンでpHが改善しても血圧や心拍出量は変わらなかったと報告されています(6,7)。過度な期待は禁物です。


メイロンの投与量の計算

投与する場合は、以下の計算式を参考にします(4)

💡 メイロン投与量の計算式

投与量(mEq)= BE × 体重(kg)× 0.2

メイロン7%の場合

投与量(mL)= BE × 体重(kg)× 0.25

この式の意味を説明しますね。

  • BE:血液1LをpH 7.4にするために必要なHCO3-の量(mEq/L)
  • 体重 × 0.2:細胞外液量の概算(体重の60%が水分、うち1/3が細胞外液)

ただし、実際にはこの計算通りにpH 7.4にはなりません。細胞内にも重炭酸が存在し、その不足分は計算式に含まれていないからです。まずは計算量の半量を投与し、再評価するのが安全といえるでしょう(4)


メイロンの注意点

メイロンは、使い方を間違えると逆効果になります(4,5)

📊 メイロン投与の注意点

  1. 呼吸性アシドーシスには禁忌:CO2蓄積をさらに悪化させる
  2. 十分な換気が必要:換気不十分だと逆説的細胞内アシドーシスを起こす
  3. 原疾患の治療が主体:メイロンは対症療法にすぎない
  4. 合併症に注意:高Na血症、低K血症、低Ca血症、血管外漏出時の組織壊死
  5. 投与速度を守る:10mEq/分以下、最大100mEq/h

逆説的細胞内アシドーシスとは?

大事なので説明しておきます。

体内では常に「H+ + HCO3 ⇄ H2O + CO2」という平衡が保たれています。メイロン(HCO3)を投与すると、体内のH+がCO2に変換されます。このCO2を換気で体外に排出することで、アシドーシスが改善するわけです(4)

でも、換気が十分にできないと、CO2が蓄積します。CO2は細胞膜を通過しやすいので、細胞内のCO2が増加し、逆に細胞内アシドーシスが悪化してしまうんです(4)

⚠️ 特に注意が必要な状況

  • 呼吸筋疲労で自発換気が弱い患者
  • 中毒などで換気ドライブが低下している患者
  • 人工呼吸器の設定が不十分な患者

これらの状況では、メイロン投与が病態を悪化させます(4)


エビデンスは?〜BICAR-ICU試験〜

2018年のLancetに、重症代謝性アシドーシスへの炭酸水素ナトリウム投与を検証したRCT(BICAR-ICU試験)が発表されました(5)

📋 BICAR-ICU試験の概要

対象:ICU入室48時間以内、pH≤7.20、PCO2≤45mmHg、HCO3≤20mEq/L、SOFA≥4、乳酸≥2mmol/Lの重症代謝性アシドーシス患者(呼吸性・ケトアシドーシス・中毒は除外)

介入:4.2%炭酸水素ナトリウムを目標pH≥7.30になるまで投与

結果

  • 主要転帰(28日死亡+7日目の臓器障害)に有意差なし(66% vs 71%、P=0.24)
  • 腎代替療法(透析)の使用は炭酸水素ナトリウム群で少ない傾向
  • 急性腎障害(AKIN 2-3)がある患者では、炭酸水素ナトリウム群で28日死亡率が有意に低下(46% vs 63%、P=0.017)

この研究から言えることは(5)

✅ 臨床的な解釈

  • ルーチンのメイロン投与は推奨されない(全体では予後改善効果なし)
  • 急性腎障害があり、pH < 7.2の重症代謝性アシドーシスにはメリットがありそう
  • 高Na血症・低Ca血症などの合併症に注意が必要

まとめ

✅ BEとメイロンのポイント

  1. BEの意味合いはHCO3とほぼ同じ:代謝性アシドーシスの有無を示す
  2. BEだけでは原因は分からない:AGで原因を追求する(KULT)
  3. メイロンのルーチン投与は害が多い:安易に投与しない
  4. 投与を考慮する条件:pH<7.2+循環不全+十分な換気+高度腎障害(AKIN 2-3)
  5. 原疾患の治療が最優先:メイロンは対症療法にすぎない

引用文献

  1. Kellum JA. Determinants of blood pH in health and disease. Crit Care. 2000;4(1):6-14. [PMC]
  2. Berend K, de Vries AP, Gans RO. Physiological approach to assessment of acid-base disturbances. N Engl J Med. 2014;371(15):1434-1445. [PubMed]
  3. Kraut JA, Madias NE. Serum anion gap: its uses and limitations in clinical medicine. Clin J Am Soc Nephrol. 2007;2(1):162-174. [PubMed]
  4. Kraut JA, Madias NE. Treatment of acute metabolic acidosis: a pathophysiologic approach. Nat Rev Nephrol. 2012;8(10):589-601. [PubMed]
  5. Jaber S, Paugam C, Futier E, et al. Sodium bicarbonate therapy for patients with severe metabolic acidaemia in the intensive care unit (BICAR-ICU): a multicentre, open-label, randomised controlled, phase 3 trial. Lancet. 2018;392(10141):31-40. [PubMed]
  6. Mathieu D, Neviere R, Billard V, et al. Effects of bicarbonate therapy on hemodynamics and tissue oxygenation in patients with lactic acidosis: a prospective, controlled clinical study. Crit Care Med. 1991;19(11):1352-1356. [PubMed]
  7. Cooper DJ, Walley KR, Wiggs BR, et al. Bicarbonate does not improve hemodynamics in critically ill patients who have lactic acidosis. A prospective, controlled clinical study. Ann Intern Med. 1990;112(7):492-498. [PubMed]

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「とりあえずメイロン」から卒業して、根拠を持った判断ができるようになりましょう。大事なのは、BEがマイナスだからメイロンを入れるのではなく、なぜアシドーシスが起きているのかを考えること。その原因に対するアプローチこそが、本当の治療です。一緒に頑張りましょう。