「ごめんなさいと思いながらCを選ぶ」
2月のリアルタイムセミナーで、ESBL産生大腸菌の尿路感染症の症例問題を出した時のチャット欄のコメントです。なんかこれ、めちゃくちゃ臨床のリアルだなって思ったんですよね。
メロペネムを使うって、なんかちょっと後ろめたい気持ちがあるじゃないですか。
AMRの観点から言えば、できるだけ使いたくない。仕様書を書かないといけない病院も多い。でも、目の前の患者さんを守るためには使わざるを得ない時がある。
今回の記事は、セミナーで扱ったESBLの耐性菌の話と、デバイス感染(CRBSI)の症例、そしてQラボメンバーの腎臓内科の平井先生から共有いただいたシャント感染の視点をまとめました。皆さんからの質問や共有が、こうして記事になっていく。Qラボらしい学びの形ですよね。
ESBLって結局、何が厄介なのか
セミナーでもお話しましたが、ESBL(基質特異性拡張型βラクタマーゼ)っていうのは、ベータラクタム系の抗菌薬を加水分解してしまう酵素のことです。つまり、セフェム系やペニシリン系の薬が分解されて効かなくなるということですね。
問題になるのは主にPEKと呼ばれる菌たちです。
💡 ESBLが問題になる菌「PEK」
- Proteus(プロテウス)
- E. coli(大腸菌)
- Klebsiella(クレブシエラ)
これらの培養結果で第3世代セフェム系の感受性が低下していたら、ESBL産生菌を疑う手がかりになります。
セミナーの症例:ESBL産生大腸菌の腎盂腎炎
施設入所中の糖尿病の患者さん。尿道バルーンが留置されていて、発熱とCVA叩打痛があったという症例でした。過去の培養でESBL産生の大腸菌が検出されていたというのがポイントでしたね。
📋 なぜ他の選択肢ではダメだったのか
| 選択肢 | ダメな理由 |
|---|---|
| セフトリアキソン | ESBLがあると分解されてしまう(耐性) |
| レボフロキサシン | ESBL産生菌はキノロンにも耐性であることが多い |
| タゾバクタム/ピペラシリン | 重症感染症においては死亡率が高かったという研究がある |
だから「ごめんなさいと思いながら」メロペネムを選ぶことになるわけですよね。
やむなしです。
ただ、ここで一つ覚えておきたいのがセフメタゾールの存在です。
✅ セフメタゾールはESBLに効く
セフメタゾール(第2世代セフェム系)は、ESBL産生の大腸菌に対しても効果があるとされています。腎盂腎炎であればセフメタゾールも治療の選択肢になりえます。カルバペネムを温存できる可能性があるという点で、知っておくと役に立つ知識ですね。
AmpC:「途中から効かなくなる」という厄介さ
ESBLとセットで覚えておきたいのがAmpCです。これはちょっとアドバンスな内容ですが、せっかくなので整理しておきますね。
ESBLが最初から耐性を持っているのに対して、AmpCは抗菌薬に暴露されることで誘導的に耐性化するというのが厄介なところなんですよね。
📊 ESBLとAmpCの違い
| 項目 | ESBL | AmpC |
|---|---|---|
| アンバー分類 | クラスA | クラスC |
| 問題になる菌 | PEK(プロテウス、大腸菌、クレブシエラ) | non-PEK / SPACE(エンテロバクターなど) |
| 耐性の出方 | 最初から耐性 | 抗菌薬暴露で誘導的に耐性化 |
| 臨床的な注意点 | 感受性が低下していたら疑う | 治療中に「途中から効かなくなる」ことがある |
| 代替薬 | セフメタゾール、カルバペネム | セフェピム(第4世代)、カルバペネム |
non-PEKの菌に対して第3世代セフェム系で治療している時に、途中で治療効果が頭打ちになってきたら「AmpCの過剰産生が起きているのではないか」と疑う必要があります。その場合はセフェピムへの変更を考慮するというのが実践的な対応ですね。
デバイス感染(CRBSI):メロペン+バンコ、使いすぎ?
セミナーの症例3では、PICC関連の血流感染(CRBSI)を扱いました。肺炎後に退院できず、PICCを留置していた患者さんが敗血症性ショックになったという症例ですね。
CRBSIの原因菌は多くの場合GPCなので、「バンコマイシンだけでいいでしょう」という意見もあります。実際、ICUの施設によってはそう言われたりもします。カンファで炎上したこともあるんですよね、正直。
でも、僕個人的には、敗血症性ショックで待ったなしの状況では、メロペネム+バンコマイシンを使うのもやむなしかなと思っています。
📩 僕自身の苦い経験
1回だけあるんです。CRBSIだと思ってバンコマイシンに絞っていたら、結局GNRの感染症だったという経験が。かなり免疫抑制状態の患者さんで、GNRもカバーしないとダメだったんですよね。血培が出るまでの半日〜1日、有効な抗菌薬が使えていなかったかもしれないと思うと、やっぱり辛い。
もちろん、培養結果が判明したら速やかにデエスカレーションすることが大前提です。広く始めて、結果が出たら狭める。この流れは常に意識しておきたいですね。
MSSAの菌血症:バンコマイシンではダメ
症例の続きで、血液培養からGPCクラスターが出て、迅速検査でMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)と判明しました。ここからの抗菌薬の選択も大事なポイントでしたね。
⚠️ MSSAの菌血症にはセファゾリンが第一選択
- バンコマイシンはMSSAに対しては効果が劣る
- 治療期間は最低2週間
- 経食道エコー(TEE)で疣贅の確認を検討
- 血液培養の陰性化を確認するまで再検を継続
セミナー中に「TTEでも感度は50〜70%なのでTEEを」「TTE何度でもオーダーください」というコメントもいただきました。経胸壁エコー(TTE)だけでは見逃す可能性があるんですよね。
黄色ブドウ球菌の菌血症はめちゃくちゃ重症病態だと僕は思っているので、個人的にはTEEをほぼ全例で実施すべきだと考えています。実際に、TTEではわからなかったけどTEEで疣贅がわかったという症例を経験したこともあります。
多職種の視点が学びを広げる
今回のセミナーで特に嬉しかったのが、腎臓内科の平井先生からの共有でした。
✅ 腎臓内科の視点:シャント感染を忘れずに
平井先生からの共有ポイント:
- 透析患者さんが救急外来に来たら、まずシャントの診察
- 見た目に発赤がなくても、特にグラフト(人工血管)の場合はエコーを当てて血管周囲の低エコー領域がないか確認
- GPCが多いが、免疫弱者なので緑膿菌のカバーが必要なこともある
- 透析日なら透析の前後で培養を取る
- バンコマイシン+セフタジジムで開始するケースも
これは本当に勉強になりましたね。僕自身、トップトゥボトムで診察するとは言いつつも、シャント感染というのは正直あまり意識せずに診療に当たることが多かったので、めちゃくちゃ参考になりました。
こうやって、救急医の視点だけでは漏れてしまうところを、腎臓内科の先生が補ってくれる。Qラボにはいろんな職種、いろんな専門の方がいるからこそ、こういう学びが生まれるんですよね。
セフトリアキソンと腎機能:平井先生からの補足
「セフトリアキソンは肝代謝だから腎機能に合わせた調整不要」というのはセミナーでもお話しましたが、「腎機能が低い人に1gと2gどちらがいいですか?」という質問が出ました。
平井先生からは、救急で迷う場合は2gでもいいけれど、腎不全がある場合にダラダラと2gを投与し続けると「セフトリアキソン脳症」のリスクが上がるという大切な指摘をいただきました。
💡 ポイント
「投与量を多くすれば効くってわけじゃない。PKPD理論、つまり時間依存性か濃度依存性かという考え方も意識しながら、副作用とのバランスで投与量を決めていくんだ。これは僕自身、研修医1年目の時に上級医に怒られて学んだことだよ。」
Qラボは「双方向の学びの場」
今回のリアルタイムセミナーは、チャット欄がめちゃくちゃ盛り上がりましたね。平井先生のように手を挙げて共有してくださる方、チャットで積極的にコメントしてくださる方、本当にありがとうございました。
皆さんからの質問や共有が、こうして限定記事として形になっていく。これがQラボの学びの循環だと思っています。
3月のセミナーは、前野先生が登壇して「中毒」をテーマに扱う予定です。
メンバーが登壇するっていうこの流れ、すごくいいなと思うんですよね。
やってみたいなって思った方は、ぜひ気軽に声をかけてください。内容の監修もデザインも、全部サポートします。
そして、マシュマロでのコメント、オープンチャットでの質問、どんどんお待ちしています。過去のアーカイブセミナーについての質問も大歓迎ですよ。皆さんの声が、次のアウトプットを生みます。
どうですか?抗菌薬、ちょっと考えるのが楽しくなってきましたか?ぜひ感想を聞かせてください。





