感染症診断のトライアングル〜3つ決まれば抗菌薬は決まる〜
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【導入】
【感染症のトライアングル】
- 1:47 – トライアングルの全体像:臓器・微生物・患者背景
- 2:46 – 頂点①:臓器(どこの感染か?)
- 5:29 – 頂点②:微生物(何が原因か?)
- 6:16 – 頂点③:患者背景(誰の感染か?)
【患者背景の深掘り】
【まとめ】
0:00「どの抗菌薬を使えばいいかわからない」を卒業する
2026年2月のQラボ、第2回セミナーです。今日のテーマは感染症診療におけるトライアングル。サブタイトルにもあるように、「3つ決まれば抗菌薬は決まる」という話です。
前回は「発熱=抗菌薬投与じゃないよ」という話をしました。じゃあその上で、「この人は感染症だろう」と判断して、抗菌薬を使おうってなった時に、どうやって抗菌薬を選ぶのか。
実はここにも型があるんですよね。
今回は医師や医学生の方はもちろん、看護師さんやその他の職種の皆さんにもぜひ聞いてほしい内容です。「なんでドクターがこの抗菌薬を選んでいるのか」、その意思決定の理由が、この3つの要素を知ることでかなりクリアに見えてくるはずです。
0:53よくある場面:とりあえずメロペネム、の問題点
こんな場面、身に覚えはないでしょうか。
🤔 こんな思考、していませんか?
- 「この人、重症だからとりあえず広域のメロペネムでいいんじゃないか」
- 「メロペン+バンコなら間違いないでしょう」
- 「培養が返ってくるまでは広めにカバーして、あまり考えなくていいんだよ」
全て合っている要素もあるし、間違っているところもある。実はね、この抗菌薬選択っていうところには、「重症だから広く行こう」以外にも考える型があるんです。
この型を身につけることで、理にかなった抗菌薬選択をする癖がつくと思いますので、今日はそこを一緒に学んでいきましょう。
1:47感染症のトライアングル:臓器・微生物・患者背景
感染症のトライアングル。今回はこの3つを覚えてもらうためにお話しします。
🔺 感染症診断のトライアングル
| 🫁 臓器 どこの感染か? |
||
| 🦠 微生物 何が原因か? |
💊 抗菌薬 | 👤 患者背景 誰の感染か? |
この3つが決まれば、抗菌薬は自ずと決まる
大事なのは、この三角形のそれぞれの要素が決まれば、自ずと抗菌薬はどれを選ぶかが決まるということなんです。
逆に言えば、この3つを考えずに抗菌薬を選んでいると、それは当てずっぽうな選択になってしまう。
では、それぞれの要素を見ていきましょう。
2:46頂点①:臓器(どこの感染か?)
まず一つ目、臓器。どこの感染かを推定するということです。
なぜ感染臓器の推定が必要なのか、理由は大きく2つあります。
🫁 なぜ感染臓器の推定が大事なのか?
理由①:臓器ごとに典型的な原因菌が決まっている
臓器がわかれば、狙うべきターゲットの菌がある程度絞れる
理由②:臓器によって選べない抗菌薬がある
抗菌薬の移行性の問題で、菌には効くけどその臓器には届かないということがある
3:10📋 臓器ごとの典型的な原因菌
🔬 覚えておきたい臓器と原因菌の対応
| 感染臓器 | 典型的な原因菌 |
|---|---|
| 肺炎 | 肺炎球菌、インフルエンザ桿菌 |
| 尿路感染 | 大腸菌、腸球菌 |
| 胆道感染 | 大腸菌、嫌気性菌 |
| 皮膚軟部組織感染 | ブドウ球菌、連鎖球菌 |
臓器がわかれば菌が絞れる。例えば皮膚軟部組織感染症だったらやっぱりブドウ球菌が多いよなっていうのは、体感的にもわかりますよね。こういった典型的な原因菌はぜひ覚えてもらうといいかなと思います。
3:38🚫 移行性の問題:効く菌でも届かないことがある
⚠️ 臓器によって選べない抗菌薬がある
| 感染臓器 | 使える | 移行しない |
|---|---|---|
| 髄膜炎 | セフトリアキソン ◯ | アミノグリコシド ✕ |
| 前立腺炎 | キノロン ◯ | セファゾリン ✕ |
菌に効くからOKと思っても、その臓器に届かなければ意味がない
だからまず最初に「どこの感染か」を考えるのが非常に大事なんです。
4:34🔍 感染臓器を推定するための情報
どこから感染しているかの推定に使うのが、前回も話した身体診察、それに加えて画像検査やデバイスの有無です。
🩺 感染臓器を推定する手がかり
- 身体診察:前回の7Dsでも学んだ通り、まず患者さんを診る
- 画像検査:胸部X線、CT、エコーなど
- デバイスの有無:CV、尿カテ、ドレーンなど
💡 吹き出し|あつし
「前回のセミナーで学んだ身体診察とデバイス確認は、実は感染臓器の推定にもつながっているんだ。『なぜ感染が起きているのか』をフォーカスする中で、結果として感染臓器が見えてくるんだよ。」
5:29頂点②:微生物(何が原因か?)
次に、原因の微生物を推定するためのヒントです。
さっきの「臓器ごとの典型的な原因菌」がわかれば、それだけでも大きなヒントになります。その上でさらに手がかりとなるのが以下のポイントです。
🦠 原因微生物を推定する手がかり
1. グラム染色・迅速検査
疑わしいところの検体が取れる場合は、グラム染色するのが大事です。連鎖球菌の迅速検査なども、パッと原因菌を推定する手がかりになります。
2. 市中感染 or 院内感染
院内感染の場合は耐性菌のリスクが上がります。自施設のアンチバイオグラム(各菌の薬剤耐性率)を確認しながら、微生物がどんな耐性を持っているかを推定することが大事です。
3. 過去の培養結果
尿路感染症を繰り返している人などは、同じ起因菌の時にある程度感受性が似ていることもあります。
4. 抗菌薬の投与歴
3ヶ月以内に抗菌薬を使っている場合、耐性リスクが上がっている可能性があります。
経験的治療(エンピリック治療)であっても、これらの情報を組み合わせれば「当てずっぽう」ではない推定ができるわけです。
6:16頂点③:患者背景(誰の感染か?)
ここまでの臓器や微生物の推定は結構考えることが多いかなと思うんですけど、ここからがさらに面白いところです。
同じ臓器、同じ菌だと同定されたとしても、患者背景によって抗菌薬の選択が変わることがある。ここが感染症診療の難しいところであり、奥深いところなんです。
👤 患者背景で変わる5つの要素
| 評価項目 | 影響 |
|---|---|
| 重症度 | 敗血症性ショック → 広域カバーが必要 |
| 免疫不全 | 好中球減少 → 緑膿菌カバーが必須 |
| 抗菌薬投与歴 | 3ヶ月以内の投与 → 耐性リスク↑ |
| デバイス | CV、尿カテ → MRSA、カンジダを考慮 |
| アレルギー | ペニシリンアレルギー → 代替薬選択 |
同じ肺炎でも、患者が違えば抗菌薬も違う。これが感染症のトライアングルの核心です。
7:11患者背景の深掘り①:重症度と免疫不全
🚨 重症度
やっぱり重症の患者さん、敗血症性ショックのようにバイタルサインが崩れている場合は、抗菌薬治療を始めたタイミングでその原因菌を外してしまうと、患者さんの予後に関わってくるんです。
⚠️ 重症度による抗菌薬選択の違い
- 重症(敗血症性ショックなど):まずは広域でしっかりカバー。原因菌を外さないことが最優先
- 軽症:ターゲットを絞って、狭域の抗菌薬でも許容される
8:01🛡️ 免疫不全
免疫不全の患者さんの場合、例えば好中球減少があるような場合は、タゾバクタム/ピペラシリンのような緑膿菌をカバーする抗菌薬が基本的に必須になることが多いです。
普通の人なら不要なカバーが、免疫不全の患者さんでは必要になる。この違いを覚えておくのは大事ですね。
8:20💊 抗菌薬の投与歴
3ヶ月以内に抗菌薬を使っていた場合は、耐性リスクが上がっている可能性があります。院内感染の考え方とも似ているんですが、耐性菌がある程度考えられるような時は、広域で行くしかないかなという選択になることもあるんです。
8:46患者背景の深掘り②:デバイス感染とアレルギー
🔌 デバイス感染
院内感染の中でも特に厄介なのがデバイス感染です。
🔌 デバイス感染で考慮すべき菌
- 中心静脈カテーテル(CV)が入っていて、MRSAを保菌している患者さん
- → MRSAカバーを意識した抗菌薬選択が必要
- → カテーテル関連血流感染症(CRBSI)を疑う
- カンジダも悩ましいポイント
- → 保菌なのか、菌血症に至っているのかで対応が変わる
デバイスが入っていることでしか起こり得ない感染症がある。だからこそ、デバイスの有無は必ず確認する必要があるんです。
9:20💉 アレルギー
最後にアレルギーです。
例えば「この患者さんは連鎖球菌だから、ペニシリンGで行こう」と決めた時に、「あ、でもこの患者さん、ペニシリンアレルギーです」ってなったら、代替薬を選択しないといけない。
同じ肺炎、同じ尿路感染でも、患者さんが違えば選ぶ抗菌薬も変わる。これがトライアングルの3つ目の要素「患者背景」の意味するところです。
9:38まとめ:「とりあえず広域」から卒業しよう
✨ 今日のポイント:感染症のトライアングル
- 臓器:どこの感染か?
- 臓器ごとに典型的な原因菌が決まっている
- 臓器によって移行性の問題で選べない抗菌薬がある
- 微生物:何が原因か?
- グラム染色・迅速検査が手がかりになる
- 市中 or 院内、アンチバイオグラム、過去の培養結果も大事
- 患者背景:誰の感染か?
- 重症度・免疫不全・抗菌薬投与歴・デバイス・アレルギー
- 同じ臓器、同じ菌でも、患者が違えば抗菌薬も違う
🎯 今日のゴール
「とりあえず広域で抗菌薬を始めましょう」から卒業する
💡 吹き出し|あつし
「抗菌薬を選ぶ時は、まずこの3つを考えよう。臓器は何か、微生物は何か、そして患者さんの背景はどうか。この3つが決まれば、おのずと答えが見えてくるんだ。」
参考文献
- JAID/JSC感染症治療ガイド2023. 日本感染症学会・日本化学療法学会.
- IDSA. 2024 Guidance on the Treatment of Antimicrobial Resistant Gram-Negative Infections.
- Evans L, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2021. Crit Care Med. 2021;49(11):e1063-e1143.
- Niederman MS, et al. Strategies for antibiotic selection in empirical therapy. Clin Microbiol Infect. 2016;22 Suppl 4:S35-S40.
どうですか?あなたの感想を聞かせてください。
抗菌薬の選択って、最初はどうしても「よくわからないからとりあえず広域で」ってなりがちですよね。僕も研修医の頃はそうでした。
でも、このトライアングルを意識するようになってから、「なぜこの抗菌薬なのか」を自分の言葉で説明できるようになったんです。それって、患者さんにとっても、チーム医療にとっても、すごく大事なことだと思うんですよね。
看護師さんや検査技師さんにとっても、医師がこの3つを考えて抗菌薬を選んでいるんだと知っておくだけで、カンファレンスでの議論や申し送りがぐっと深くなるはずです。
次回のセミナーでは、いよいよ抗菌薬の効果判定に踏み込みます。「始めた抗菌薬、いつまで続けるの?」「効いてなかったらどうするの?」そんな疑問に答えていきます。
一緒に学び、一緒に悩み、そして一緒に成長していきましょう。





