Qラボ

アニオンギャップの計算=【K⁺を含むか含まないか問題】

オープンチャットに届いた、とても良い質問

先日、Qラボのオープンチャットにこんな質問が届きました。

📩 メンバーさんからの質問

「血ガスを読む練習をしようと思い、当院の血ガス結果を見てみますと…

Anion gap、K⁺となっており、カリウムイオンが加算された数値になっています。

AG開大かどうか見るときは、カリウムイオンが入ってない計算で考えるということでよろしいでしょうか…」

FiO2(C) 21.0 %
T 37.0 ℃
PEEP 0.0 cmH2O

血液ガス

pH(T) 7.338
pCO2(T) 47.0 mmHg
pO2(T) 42.1 mmHg

酸塩基平衡

ABE,c -0.8 mmol/L
cHCO3-(P),c 24.6 mmol/L
ctCO2(P),c 58.4 Vol%

オキシメトリ

ctHb 10.4 g/dL
FO2Hb 70.8 %
FCOHb 0.3 %
FMetHb 1.6 %
FHHb 27.3 %
ctO2,c 10.3 Vol%
sO2 72.2 %
Hct,c 32.0 %

電解質

cNa+ 148 mEq/L
cK+ 4.7 mEq/L
cCl- 112 mEq/L
cCa2+ 1.33 mmol/L
cCa2+(7.4),c 1.28 mmol/L
AnionGap,K+,c 16.1 mEq/L

代謝項目

cGlu 108 mg/dL
cLac 0.6 mmol/L
cCrea 1.88 mg/dL

 

とても本質的な質問だと思ったんです。

血液ガス分析器の表示値と、教科書で習う計算式が違う。これ、現場で戸惑う方は多いんじゃないでしょうか。

この記事では、アニオンギャップ(AG)の計算式の違いと、臨床的にどう解釈すればよいかについて、最新のエビデンスをもとに解説していきます。


結論から:どちらの計算式も医学的に正しい

まず、最も大切なことをお伝えします。

K⁺を含む計算も、含まない計算も、どちらも医学的に正しいです。

重要なのは、使用する計算式に対応した正常値を使うことなんです。

💡 2つの計算式と正常範囲

計算式 正常範囲 備考
K⁺を含まない
AG = Na⁺ − (Cl⁻ + HCO₃⁻)
3〜12 mEq/L 教科書で多い方法
K⁺を含む
AG = (Na⁺ + K⁺) − (Cl⁻ + HCO₃⁻)
8〜16 mEq/L 一部の施設・分析器で使用

K⁺を含む場合、正常範囲が約4 mEq/L高くなります。これはK⁺の血清濃度(3.5〜5.0 mEq/L程度)がそのまま足されるためです。


なぜ2つの計算式があるのか?

歴史的に、両方の計算式が使われてきました。

K⁺を含めない理由

  • K⁺は血清濃度が低く(3.5〜5.0 mEq/L程度)、Na⁺(140程度)に比べて影響が小さい
  • K⁺は変動が大きいため、除外しても臨床的意義は変わらないとされる
  • 計算がシンプルになる

K⁺を含める理由

  • 理論的には陽イオン全体と陰イオン全体の差を見るため、K⁺も含めるべきという考え方もある
  • 一部の血液ガス分析器は、この式を採用している

StatPearlsやAcute Care Testingなどの専門文献でも、両方の計算式が紹介されています。

「K⁺を除外する慣行は”widely accepted”(広く受け入れられている)」とされていますが、K⁺を含める方法も定義として正しいと記載されています。


実際に計算してみよう

質問者さんのデータを使って、実際に計算してみましょう。

📊 質問者さんのデータ

  • Na⁺:148 mEq/L
  • K⁺:4.7 mEq/L
  • Cl⁻:112 mEq/L
  • HCO₃⁻:24.6 mEq/L
  • 機械表示:AnionGap,K+,c = 16.1 mEq/L

K⁺を含む計算(機械の表示)

AG = (Na⁺ + K⁺) − (Cl⁻ + HCO₃⁻)

= (148 + 4.7) − (112 + 24.6)

= 152.7 − 136.6

= 16.1 mEq/L

→ 正常範囲:8〜16 mEq/L → 正常上限

K⁺を含まない計算(教科書で多い方法)

AG = Na⁺ − (Cl⁻ + HCO₃⁻)

= 148 − (112 + 24.6)

= 148 − 136.6

= 11.4 mEq/L

→ 正常範囲:3〜12 mEq/L → 正常範囲内

✅ このケースの解釈

どちらの計算でも、明らかなAG開大とは言えません

乳酸も0.6 mmol/Lと正常であり、AG開大性代謝性アシドーシスはなさそうです。


血液ガス分析器による違い

実は、分析器によってAGの計算方法や正常値が異なることが知られています。

Acute Care Testingによると、ある研究で8つの異なる分析装置を比較したところ、平均AGは5.9〜12 mmol/Lの範囲で変動していました。

⚠️ 分析器による違いの注意点

  • 従来の8〜16 mEq/Lが適切な装置もある
  • 3〜10 mEq/Lが適切な装置もある
  • 「AG > 12なら開大」という一律のカットオフは、分析器によって適切でないことがある
  • 各施設で独自の正常値を設定する必要がある

お使いの機械が「AnionGap,K+,c」と表示しているなら、その機械はK⁺を含む計算式を採用しており、正常範囲も8〜16 mEq/L程度と考えるのが適切です。


AGの限界も知っておこう

これは私が執筆中の血ガス本でも書いているところですが、AGには限界があります。

🔍 AGの限界

1. 軽度の乳酸アシドーシスを見逃すことがある

乳酸2〜4 mM程度の軽度上昇では、AGが正常範囲内に留まることがあります。ベースラインのAGが低い患者さんでは、乳酸が上昇してもAG開大として検出されにくいんです。

2. 低アルブミン血症の影響

アルブミンが10 g/L低下するごとに、AGは2.3 mEq/L低下すると報告されています。低アルブミン血症の患者さんでは、実際にはAG開大があっても正常に見えてしまうことがあります。

3. 分析器によるばらつき

先ほど述べたように、分析器によって正常値が大きく異なります。

だからこそ、「AG正常=代謝性アシドーシスなし」とは言い切れないんですよね。

乳酸値など他の指標と組み合わせて総合的に判断するのが大切です。


アルブミン補正AGについて

低アルブミン血症の患者さんでは、見かけ上AGが低く出てしまいます。これを補正するための計算式が提案されています。

💡 アルブミン補正AGの計算式

補正AG = 実測AG + 2.5 × (4.0 − アルブミン[g/dL])

アルブミンが4.0 g/dLを下回る場合、その差分×2.5をAGに足し算します。

ただし、この補正については文献によって見解が分かれます。

立場 根拠
補正を推奨 重症患者では低アルブミン血症が多く、補正しないとAG開大を見逃す可能性がある
補正を推奨しない 補正あり/なしで検査性能は同等であり、追加ステップだが臨床的利益がないという意見もある(EMCrit)

私の考えとしては、重症患者さんでアルブミンが明らかに低い場合は、補正AGも参考にするのが良いと思います。ただ、補正AGだけで判断するのではなく、やはり乳酸値や臨床所見と合わせて総合的に判断することが大切です。


臨床的にどう考えるか

ここまでの話をまとめると、AGの解釈はこう考えると良いでしょう。

✨ AGを解釈するときのポイント

  1. 機械の計算式を確認する
    • K⁺を含んでいるか、含んでいないか
    • 施設の正常値を確認する
  2. カットオフは目安として使う
    • 「AG > 12なら開大」は一律に適用できない
    • 分析器によって適切な閾値が異なる
  3. 乳酸値と合わせて評価する
    • AGが正常でも、乳酸が高ければ乳酸アシドーシスを疑う
    • 軽度の乳酸上昇はAGに反映されにくい
  4. 低アルブミン血症を考慮する
    • アルブミンが低い患者さんでは、AGが正常でもAG開大がある可能性
    • 必要に応じて補正AGを計算する
  5. 臨床所見と合わせて総合判断
    • AGは「スクリーニング」であり、単独で診断するものではない
    • バイタル、身体所見、病歴と合わせて考える

まとめ

アニオンギャップの計算、整理できたでしょうか。

📝 この記事のポイント

  • K⁺を含む計算も含まない計算も、どちらも医学的に正しい
  • 重要なのは、使用する計算式に対応した正常値を使うこと
  • K⁺を含む場合:正常範囲は8〜16 mEq/L程度
  • K⁺を含まない場合:正常範囲は3〜12 mEq/L程度
  • 分析器によって正常値が異なるので、施設の正常値を確認する
  • AGには限界がある:軽度の乳酸アシドーシスや低アルブミン血症では見逃すことがある
  • 乳酸値や臨床所見と合わせて総合的に判断する

教科書で習う「AG > 12なら開大」というカットオフは、あくまで目安です。現場では、機械の計算式や施設の正常値、患者さんの状態を踏まえて、柔軟に解釈することが大切なんですね。

💡 メッセージ

「AGの計算式が違う」と戸惑うことがあるかもしれないけど、大切なのは「どの計算式を使っているか」を理解して、それに対応した正常値で判断することだよ。AGは便利なスクリーニングツールだけど、過信しすぎず、乳酸値や臨床所見と合わせて総合的に考えよう。


参考文献

  1. StatPearls – Biochemistry, Anion Gap. NCBI Bookshelf. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK539757/
  2. Clinical aspects of the anion gap. Acute Care Testing. https://acutecaretesting.org/en/articles/clinical-aspects-of-the-anion-gap
  3. Diagnosis of metabolic acid-base disorders & AGMA. EMCrit IBCC. https://emcrit.org/ibcc/agma/
  4. Medscape. Anion Gap: Reference Range, Interpretation, Collection and Panels. https://emedicine.medscape.com/article/2087291-overview
  5. Kraut JA, Madias NE. Serum anion gap: its uses and limitations in clinical medicine. Clin J Am Soc Nephrol. 2007;2(1):162-174.

どうですか?あなたの感想を聞かせてください。

アニオンギャップの計算、現場では教科書通りにいかないことも多いですよね。

「うちの施設ではこうしている」「こんな疑問がある」など、ぜひコメントで教えてください。

一緒に学び、一緒に悩み、そして一緒に成長していきましょう。