マシュマロから届いた、とても良い質問
先日、マシュマロにこんな質問が届きました。
📩 読者からの質問
「シャントという状態について、例えば血管の動静脈瘻や心房中隔欠損症の様なものを考えてしまい、肺のシャントについていまいち理解できていませんでした。
肺胞でガス交換できないまま静脈血が動脈血へ流れていく、それをシャントという。
この理解で合ってますでしょうか?」
とても本質的な質問だと思ったんです。
実は、この質問は多くの医療者が通る道なんですよね。私自身も、研修医の頃に同じところでつまずきました。
「シャント」という言葉を聞くと、まず思い浮かぶのは心房中隔欠損症や動静脈瘻のような構造的な異常ですよね。血管が直接つながっていて、血液が本来通るべき道を迂回してしまう。
でも、肺のシャントは、ちょっと違うんです。
この記事では、シャントという概念を、2つのタイプに分けて丁寧に説明していきたいと思います。
「肺胞でガス交換できないまま静脈血が動脈血へ流れていく、それをシャントという」
この理解は、完全に正しいです。
でも、ここからが大事なポイント。
実は、シャントには大きく分けて2つのタイプがあるんです。そして、この2つを区別して理解することが、臨床でとても役立つんですね。
シャントの2つのタイプ
シャントは、その成り立ちによって以下の2つに分けられます。
📋 シャントの分類
- 解剖学的シャント(Anatomical Shunt)
- 血管が直接つながっている
- 肺内動静脈吻合など
- 生理学的シャント(Physiological Shunt / 機能的シャント)
- 血管の異常はないが、機能的にガス交換ができない
- 肺炎、無気肺など
この2つ、見た目は全然違うのに、「ガス交換を受けない血液が動脈血に混ざる」という結果は同じなんです。
だからこそ、どちらも「シャント」と呼ばれるわけですね。
1. 解剖学的シャント〜血管の「抜け道」がある〜
あなたが最初にイメージした「動静脈瘻」や「心房中隔欠損症」、これが解剖学的シャントに近いんです。
🩺 解剖学的シャントとは?
肺の中に、肺動脈と肺静脈を直接つなぐ血管の抜け道(肺内動静脈吻合)が存在する状態です。
血液が文字通り肺胞毛細血管床を迂回してしまうため、ガス交換を受けずに動脈系へ流れ込みます。
💡 重要なポイント
解剖学的シャントは、血管構造そのものに抜け道がある状態です。
だから、酸素を投与しても改善しにくいんです。
🔬 健常者でも起こる!
興味深いことに、健常者でも運動時や低酸素環境下で、こうした吻合が開通することが報告されています。
通常は1-3%程度の少量ですが、病的な状態(遺伝性出血性毛細血管拡張症、肝肺症候群など)ではもっと顕著になります。
📚 代表的な病態
- 遺伝性出血性毛細血管拡張症(HHT)
- 肝肺症候群(Hepatopulmonary Syndrome)
- 先天性心疾患術後
- 肺動静脈奇形
2. 生理学的シャント(機能的シャント)〜血管は正常だけど、機能していない〜
こちらは、解剖学的な抜け道があるわけではないんです。
でも、結果的に「ガス交換を受けない血液が動脈血に混入する」状態になります。
🫁 生理学的シャントとは?
例えば、肺炎や無気肺で肺胞がつぶれてしまった時を想像してください。
その部分の肺胞には換気がありません。
でも、血流は流れ続けている。
結果として、ガス交換を受けない血液が動脈系に流入してしまう。これを「生理学的シャント」と呼びます。
🔄 見た目は違うけれど、結果は同じ
解剖学的シャント:血管の抜け道がある → ガス交換を受けない
生理学的シャント:換気がない部分に血流がある → ガス交換を受けない
🩺 代表的な病態
生理学的シャントを起こす病態
- 肺炎:肺胞が炎症で埋まる
- 無気肺:肺胞がつぶれる
- 肺水腫:肺胞が水で埋まる
- ARDS:広範囲な肺胞障害
なぜ区別が大切なのか?〜治療アプローチが変わる〜
「どちらも結果は同じなら、区別する意味はあるの?」
そう思うかもしれません。でも、臨床的には、この2つを区別することがとても重要なんです。
なぜなら、治療のアプローチが変わってくるから。
💊 治療の違い
生理学的シャント
原因(肺炎、無気肺など)を治療すれば改善します。
- 抗菌薬で肺炎を治療
- 理学療法で無気肺を改善
- 陽圧換気で肺胞を開く
解剖学的シャント
血管の構造的な問題なので、酸素投与だけでは改善しません。
- 塞栓術などの血管治療が必要な場合も
- 原疾患(肝疾患など)の管理が重要
まとめ〜シャントは2つのタイプがある〜
シャントという概念、最初は分かりにくいですよね。
でも、解剖学的シャントと生理学的シャントの違いを理解すれば、血液ガスの解釈がぐっと深まります。
✨ ポイント
- シャントには2つのタイプがある
- 解剖学的シャント:血管の抜け道がある
- 生理学的シャント:換気がない部分に血流がある
- どちらも「ガス交換を受けない血液が動脈血に混入する」
- 治療アプローチが異なる
- 生理学的シャント:原因を治療すれば改善する
- 解剖学的シャント:根本治療が困難で改善しにくい
参考文献
- Wagner PD, Malhotra A, Prisk GK. Using Pulmonary Gas Exchange to Estimate Shunt and Deadspace in Lung Disease: Theoretical Approach and Practical Basis. J Appl Physiol. 2022.
- Lovering AT, Riemer RK, Thébaud B. Intrapulmonary Arteriovenous Anastomoses. Physiological, Pathophysiological, or Both?. Ann Am Thorac Soc. 2013.
- Stickland MK, Welsh RC, Haykowsky MJ, et al. Intra-Pulmonary Shunt and Pulmonary Gas Exchange During Exercise in Humans. J Physiol. 2004.
- Vogiatzis I, Zakynthinos S, Boushel R, et al. The Contribution of Intrapulmonary Shunts to the Alveolar-to-Arterial Oxygen Difference During Exercise Is Very Small. J Physiol. 2008.





