クマ外傷のお悩み相談がオープンチャットにやってきました
今回のQラボでは、初期研修医のとも先生が実際に遭遇したクマ外傷の症例について、救急医の前野先生(秋田大学)、臨床検査技師の井伊さん、そして私を交えてディスカッションを行いました。
「お疲れ様です。初期研修1年目のともです。三谷先生をはじめ、皆様からいつも沢山学ばせていただきとても感謝しております。さて、ついに私の病院に救急外来にクマ外傷の患者さんが来ました。今年の全国救急医医学会の1つのトピックになっていたとXの投稿で見かけてはいましたが、本当に自分の病院に、しかも自分の救急の担当の時間に来るとは思いませんでしたね。。。当院は300床もない2次救急病院です。どういった対応をすればよかったのかなど、疑問に残ることばかりですし、学び方・振り返り方もわからず終わりました。クマはこれから冬眠に入ると思います。その間にクマ外傷について学べれたらと思います!ぜひ皆様のご意見をお聞かせください。必要な情報があれば提示いたします!個人情報はもちろんわからないように(地域はわかってしまうかもしれませんが)」— 初期研修医・とも先生
「まさか自分の当直に来るとは…」という類の外傷だからこそ、一度でも頭の中でシミュレーションしておく価値があるテーマです。
クマ外傷は全国的に増加傾向にあり、今年の秋には広島にも実際に症例が来ています。
もう完全に他人事ではありません。今回のディスカッションを通じて、一緒に学んでいきましょう。
とも先生の症例共有:2次救急病院での対応
とも先生は、300床未満の2次救急病院で勤務する初期研修医1年目です。今回の症例について、詳しく共有してくれました。
「先生方ありがとうございます!「クマ外傷」という本があるのですね!またGETしてみようと思います!いただいたご意見をもとに症例を振り返ると、
①高エネルギー外傷としてPrimary survey、AMPLE聴取、Secondary surveyを実行→まさかのPSは問題なし。ヴィーンFでルート確保・モニター装着、酸素投与なし→SSでは顔面損傷なし。顔半分左の皮膚欠損はあるも眼球は異常なし。
②方針:外科コンサルト→歯科口腔外科コンサルト。ただ2次救急であるため、大学と相談したこともあり、救急外来からの完全な引き継ぎが難しかった。特に感染面。どのタイミングで歯科口腔外科の先生が介入してもらえるかわからないためできなかったというのが正直な感想でありますが、洗浄・抗菌薬投与が遅れてしまった。(セファゾリンから開始→手術→タゾピペに変更)現状バイタル落ち着いており、食事も摂取可能な状態だが、二次的OPEは行う方針とのこと。
③反省、というより悩み:すぐに大学病院に搬送すべきだったか。(大学病院とは前後でヘリ1時間半程度、調整を含めると2時間半かかる)抗菌薬をすぐにはじめてよかったのか。
となります。ご意見いただきありがとう御ざいました。」— とも先生
2次救急病院ならではの難しさが見えてきます。専門科へのコンサルトのタイミング、大学病院との連携、そして感染対策の初動。
これらは、クマ外傷に限らず多くの外傷対応で共通する課題です。
とも先生が挙げた「すぐに大学病院に搬送すべきだったか」「抗菌薬をすぐにはじめてよかったのか」という2つの疑問は、まさに現場で判断に迷うポイントです。 これらの疑問に、救急医の前野先生が回答してくれました。
前野先生の回答:搬送のタイミングと抗菌薬選択
救急医の前野先生(秋田大学)は、クマ外傷の第一人者として知られています。とも先生の具体的な悩みに対して、詳しく回答してくれました。
「質問ありがとうございます。そしてお疲れ様でした。受けるだけでなく外勤で送ることあるので悩みは非常によく分かります。
個人的にはまず気道のトラブルがないか近くの病院で対応し、以降は大学など耳鼻科、口腔外科のある病院にすぐ送るのが良いと思います。表層のみであればセファゾリン選ぶこともありますが、大学に来るものはほぼゾシン使います(その心は、クマの手は非常に汚く通常顔面にはいないGNRなどが多くいるため)。
血培取ってくれたら嬉しいですが余裕ない時もあると思うのですぐに打ってしまっても良いです。この機会に大学との連携を相談しておくとスムーズです(僕らも何かを呼ぶかは未だに悩みます)」— 前野先生
前野先生の回答から、いくつかの重要なポイントが見えてきます。
まず搬送のタイミングについて。
気道の問題がクリアになったら、専門科(耳鼻科、口腔外科、形成外科など)のある病院への搬送を検討すべきということです。
そして抗菌薬について。GNR(グラム陰性桿菌)とは、大腸菌や緑膿菌などの細菌のことです。クマの手には、通常の顔面外傷では考えにくい細菌が多く付着しています。
だからこそ、広域スペクトラムの抗菌薬(タゾピペ=ゾシン)を選択する必要があるんですね。
血液培養を取れればベストですが、余裕がない場合はすぐに抗菌薬を投与して良いとのことです。感染が進行するリスクを考えれば、早期投与が優先されます。これは私が書籍『クマ外傷』で学んだ内容とも合致しています。
『クマ外傷』という本:今年読んだ医学書トップクラスの一冊
今回のディスカッションでは、臨床検査技師の井伊さんと前野先生から、『クマ外傷』という本が紹介されました。
「とも先生、お疲れ様でした🙇 去年だったか今年だったか…SNSにクマ外傷の本が話題になっていました。私は持っていないのですが…」— 井伊さん
「お疲れ様でした、秋田大学の前野です。各地のニュースを見るたびに、数年前の当県の状況に似ていると感じます」— 前野先生
「残念ながらクマ外傷は各地で増加していくと見込みます。当科で出した本で、COIありまくりですが以下の本はおすすめになると思います。そのうえでポイントをあげると ・顔面、頚部(特に気管)損傷が致命的になる Aの問題が律速なためそこの介入が重要 ・顔面外傷が多く耳鼻科、眼科、形成外科での対応が必須になるため、地域の病院では対応困難になる ・感染対策が要 初期に迅速に洗浄し短時間でOpeを終えるのが吉 その後の創部処置も熱傷同様に根気強く必要 こんなところだと思います。裏話ですがVol2を制作しているらしく、そちらもお楽しみにしてください!よければこちらのご購入をご検討ください(さすがに私は持っています)」— 前野先生
井伊・前野先生が紹介してくださった『クマ外傷』の本は、私も読ませていただきましたが、今年読んだ医学書の中でもトップクラスで印象に残った一冊でした。
あまりに良かったので、思わず自分のポッドキャストでも熱く語ってしまったほどです。興味があればぜひ聴いてみてください!
ポッドキャストはこちらから
今回のディスカッションから学べること
- クマ外傷は高エネルギー外傷として対応する。Primary surveyから始める
- 気道(Airway)の問題が最優先。顔面・頚部・気管損傷が致命的になる
- 感染対策は初期が勝負。迅速な洗浄と短時間の手術がポイント
- 抗菌薬は広域スペクトラム(タゾピペ)を選択。クマの手にはGNRが多い
- 血培を取れなくても、抗菌薬はすぐに投与してよい
- 気道が安定したら、専門科のある病院への搬送を検討する
- 平時から大学病院との連携体制を確認しておく
Qラボが目指す「学びの循環」
「まさか自分の当直に来るとは…」系の症例だからこそ、一度でも頭の中でシミュレーションしておく価値があるテーマだと思っています。
こうやって「誰かのリアルな経験 → みんなの学び → 次の誰かを助ける」という流れが生まれるのが、Qラボの一番好きなところです。
引き続き、気になる症例・迷ったポイント、オープンチャットもしくはマシュマロにどんどん投げてくださいね!
とも先生、井伊さん、前野先生、ありがとうございました。 クマはこれから冬眠に入ります。その間に、私たちも準備を整えておきましょう。そして冬眠明けに、もし同じような症例に出会ったとき、今回の学びが必ず役に立つはずです。
あなたも、気になる症例・迷ったポイントがあれば、ぜひQラボで共有してみてください。一緒に学び、一緒に成長していきましょう。





