今回は、敗血症の定義から治療まで、1ヶ月間学んできた内容を総括してお話しします。
SOFAスコアの歴史から最新のガイドライン、抗菌薬の選び方やICUでの管理まで、一緒に整理していきましょう。
セミナー動画
敗血症の定義はどう変わってきたのか
0:00~5:00
敗血症の診断に用いられているのは、現在Sepsis 3という定義です。ただ、これに至るまでには歴史があるんですよね。
もともとはSIRS(全身性炎症反応症候群)というものがありました。
バイタルサインや採血による炎症反応をスコアリングして、感染が疑われた状態でSIRSの基準を満たすものを敗血症と定義していたんです。
でも、このSIRSって、感度は高いんですけど、特異度が低いんですよね。
入院中の患者さんって、やっぱり一度はSIRSクライテリアが陽性になるっていうぐらい、いろんな人に当てはまってしまうと。
例えば、ランニングした人でも呼吸数が速くなるし心拍数も速くなりますよね。
じゃあそれでSIRSクライテリア陽性なんですか、みたいな話になってしまう。
そこでSepsis 2が出てきました。
たくさんのチェック項目を作って、それぞれチェックして診断しましょうと。
ただ、見てもらったらわかるように面倒くさいんですよね。評価項目がたくさんあって、パッと診断ができない。しかも、診断精度も結局あまり高くなかった。
そんな中で、我々が今使っているSepsis 3が定着したということになります。
- Sepsis 1:SIRSベースだが感度は高く特異度は低い
- Sepsis 2:チェック項目が多すぎて実用的でない
- Sepsis 3:SOFAスコアを用いた現在の定義
SOFAスコアとqSOFAの使い分け
5:00~10:00
Sepsis 3では、SOFAスコアというものを用いて臓器障害を評価します。呼吸、凝固、肝機能、循環、中枢神経、腎機能の6つの項目をスコアリングするわけです。
ただ、SOFAスコアも少し複雑ですよね。そこで出てきたのがqSOFA(クイックソーファ)です。意識の変容、呼吸数22回以上、収縮期血圧100以下、この3つのうち2つを満たせば敗血症を疑いましょうという、シンプルなスクリーニングツールです。
ここで大事なのは、qSOFAはあくまでもスクリーニングであって、診断基準ではないということなんですよね。qSOFAが陽性だから敗血症、陰性だから感染症じゃないっていうわけではないんです。
最近は、このqSOFAだと限界があるよっていう話も出てきています。2024年のガイドラインでは、qSOFAだけでなく、SIRSで見たような項目も含めた迅速評価が推奨されているんですよね。
- SOFAスコア:6つの臓器障害を評価するスコアリング
- qSOFA:意識変容、呼吸数、血圧の3項目でスクリーニング
- qSOFAはスクリーニングであって診断基準ではない
- 2024年ガイドラインではより包括的な迅速評価を推奨
2025年に発表されたSOFA 2.0とは
10:00~15:00
実はSOFAスコアって、1990年代に作られたものなんですよね。だから、今の現場に合わない部分が出てきているわけです。例えば、ドパミンが評価項目に入っているんですけど、最近は敗血症性ショックにドパミンを使う機会なんてほとんどないですよね。
そこで、数年前から世界の集中治療学会をはじめ、様々な学会がSOFA 2.0という新しいスコアリングを準備してきました。
ECMOや人工透析、ハイフローネーザルカニューラみたいな新しい治療を使っても、より正確に評価できるようにしましょうと。
そして2025年、ついにこのSOFA 2.0が発表されたんです。
基本的な評価項目は一緒なんですけど、特に循環の項目でノルアドレナリンが出てきたり、P/F ratioがかなり低い状態やECMOサポートも想定されたものになっています。
かなり今のICUに即した評価項目になってきているというところが特徴的ですね。
- 従来のSOFAスコアは1990年代に作られたもの
- ドパミンなど現在使われない薬剤が評価項目に残っていた
- 2025年にSOFA 2.0が発表された
- ECMO、ハイフローなど現代の治療に対応
感染かどうかを判断する難しさ
15:00~20:00
敗血症の診断において、まず一番最初にしないといけないのは「感染かどうかを判断する」というところですよね。これが難しいんですよ。
発熱で判断するのか、CRPの上昇で判断するのか、いつ感染症を疑うのか。結局、どこがフォーカスの感染症なんだとか、いつからが感染症で敗血症なんだとか、そこのカットオフがクリアにできないところが敗血症の難しいところなんです。
感染源の検索においては、コモンの部分と、機能構造異常がある部分を意識するというのがポイントになります。
そして、感染源の検索と同時に大事なのがソースコントロールです。
膿が溜まっていたり、石が詰まっていたり、明らかな感染源になるベースのものがあるなら、それをしっかり治療するというところが何においても最優先されます。
- 敗血症診断の最初のステップは「感染かどうか」の判断
- コモンな感染と機能構造異常を意識して感染源を検索
- ソースコントロールが何よりも大事
抗菌薬投与は時間が命、でも…
20:00~30:00
感染症の治療は時間が命と言われます。実際、初回の抗菌薬の投与時間が1時間遅れるたびに死亡率が増加するという論文もあるんですよね。
ただ、2024年の日本版ガイドラインでは、必ずしも1時間以内という目標を用いなくてもいいんじゃないかというところが言われています。
なぜかというと、「とりあえず抗菌薬を投与しなきゃ」というアクションが強調されすぎて、検体を取る前に抗菌薬を投与してしまっているということが起きていたからなんです。
そうなると培養結果が出てこない。何と戦っているのかわからないまま、ずっと広域の抗菌薬を投与し続けないといけなくなる。
だからやっぱり、しっかり評価した上で投与するというのが最近のトレンドになりつつあります。
世界のガイドラインでも、ショックがあるなしによって投与までの時間の推奨が違うんですよね。
ショックがある重症の患者さんは即座に投与する。でもショックがなければ3時間以内でいい。このリスクの層別化が大事だということです。
- 抗菌薬投与の遅れは死亡率増加と関連
- ただし検体を取る前に投与すると培養が陰性化してしまう
- リスク層別化して投与時間を判断するのが最近のトレンド
- ショックの有無で推奨される投与時間が異なる
グラム染色を味方につける
30:00~40:00
培養結果が出るまでには時間がかかりますよね。でも、それよりも少し早めに感染症の原因を評価することができるんです。それがグラム染色です。
グラム染色をすると、紫色に染まるのが陽性、ピンク色に染まるのが陰性です。そして、丸いのが球菌、細長いのが桿菌。これらの組み合わせで菌の種類を推定できるわけです。
特に覚えておいてほしいのは、グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌が頻度として高いということ。この2つをしっかり覚えておくといいと思います。
グラム陰性桿菌の中でも、市中感染で元気な人がなる感染症はPECK(大腸菌、クレブシエラなど)が多い。一方、院内感染や免疫不全の人ではSPACE(緑膿菌、アシネトバクターなど)を考えないといけない。
グラム染色をすることで、エンピリックに選んだ抗菌薬が外れているかどうかがわかる。これはかなり大きいですよね。
- グラム染色で培養結果より早く原因菌を推定できる
- 紫色=陽性、ピンク=陰性、丸い=球菌、細長い=桿菌
- グラム陽性球菌とグラム陰性桿菌が頻度が高い
- 市中感染はPECK、院内感染はSPACEを意識
抗菌薬選択の三角形
40:00~50:00
抗菌薬を選ぶ時に意識してほしいのが、感染の三角形です。
①原因微生物:グラム染色などで推定する
②患者背景:院内感染か市中感染か、高齢か若年か、免疫不全があるか
③標的臓器:どこの感染か、髄液移行性は必要か、治療期間はどうか
この3つを意識して抗菌薬を選ぶんですね。目の前の患者さんにこの3つを当てはめて考え続けていると、コモンなものに関しては覚えてくると思います。
ちなみに、最近は敗血症ガイドラインのスマホアプリがあって、感染臓器や病態を入力すると何を選べばいいか教えてくれるんですよね。本当に便利な世の中です。ただ、やっぱり本質を理解するというところも大事だと思うので、三角形は覚えておいてください。
- 感染の三角形:原因微生物、患者背景、標的臓器
- この3つを意識して抗菌薬を選択する
- アプリも便利だが本質の理解も大切
輸液とLac、そしてノルアドレナリン
50:00~60:00
敗血症性ショックでは、血管が拡張して血管内のボリュームが減ってしまいます。だから輸液をして循環血液量を是正するわけですね。
ガイドラインでは、3時間以内に体重あたり30ml以上を投与しましょうと言われています。50kgの患者さんなら1.5リットルですね。
ただ、最近のトレンドとしては、輸液の投与量を密にモニタリングして最小限にするという方向になってきています。
2025年のNICEガイドラインでは、250mlずつ評価して、1L投与したら一度上司に相談しましょうという記載もあります。
過剰な輸液は肺水腫のリスクがありますからね。
そして、ノルアドレナリンを少し早めに投与し始めるというのも最近のポイントです。
例えば1.5L輸液する予定の患者さんで血圧が低いなら、1Lぐらい行った後からノルアドレナリンを開始する。末梢から投与してもいいというのも最近は言われています。
輸液の効果判定にはLacを使います。Lacは嫌気性代謝の時に上がる指標で、ショックの時の酸素需給バランスの破綻を反映するんですよね。Lacが下がってきていれば治療がうまくいっている証拠です。
- 敗血症性ショックには輸液で循環血液量を是正
- 最近は250mlずつ密にモニタリングするトレンド
- ノルアドレナリンを早めに開始、末梢からでもOK
- ラクテートで輸液の効果を判定する
ICUでの管理:ステロイドとプロカルシトニン
60:00~70:00
ICUでの敗血症管理について、いくつかポイントをお話しします。
ステロイド:循環不全がある時はヒドロコルチゾンの投与を考えます。敗血症では副腎不全が起きてカテコラミンの反応性が落ちることがあるからです。ただ、死亡率を改善するほどのエビデンスはなくて、ショック離脱には有用という位置づけです。ノルアドレナリンが結構な量いっても血圧低下が続くなら、ステロイドを始めるという考え方でいいと思います。
プロカルシトニン:診断には使えません。バイオマーカー単独での診断は困難です。ただ、プロカルシトニンがピークから80%ぐらい下がったら抗菌薬を終了してもいいという使い方は推奨されています。これで抗菌薬の投与日数を減らせて、死亡率も改善するというデータがあるんですよね。
うちのICUでは、1日目、3日目、5日目ぐらいでプロカルシトニンを測定して、抗菌薬の終了判断に使っています。ただし、免疫抑制患者や非呼吸器感染症への適用は十分に検証されていないので注意が必要です。
- ステロイド:ショック離脱には有用、ノルアドレナリン高用量でも血圧低いなら考慮
- プロカルシトニン:診断には使えないが、抗菌薬終了の判断には使える
- ピークから80%低下したら抗菌薬終了を検討
DICと血液浄化療法:Less is More
70:00~80:00
重症患者さんでは凝固系が破綻することがあります。採血の数値が真っ赤になって、DICかなと考えることもあると思います。
ただ、大事なのはDICを診断する前に、様々な凝固異常の鑑別をまずすることです。TTP、HUS、HITなど、特異的な治療がある疾患を除外しないといけません。
そしてDICと診断したら、結局のところ原疾患への治療介入が肝です。日本のガイドラインではアンチトロンビンやトロンボモジュリンが弱く推奨されていますが、海外のガイドラインにはそもそもDICに対する治療薬の記載がないんですよね。かなり日本だけのガラパゴス的な考え方だということは覚えておいてください。
血液浄化療法についても触れておきます。PMXって聞いたことありますか?エンドトキシンを吸着する装置で、期待されていたんですけど、結局死亡率を改善しなかったんですよね。1回35万円もかかるのに。血圧は少し上がるんですけど、それだけのために35万円は…という話になって、今は推奨されなくなっています。
敗血症の診療はとにかくLess is Moreでシンプルにやるというのが最近の時流です。
- DIC診断前にTTP、HUS、HITなどを鑑別する
- DICの治療は原疾患への介入が基本
- PMXは死亡率を改善せず、現在は非推奨
- 敗血症診療はLess is Moreがトレンド
発熱はクーリングすべきか
80:00~85:00
ベッドサイドの看護師さんからよく質問を受けるんですよね。「敗血症の患者さん、クーリングした方がいいですか?」と。
結論から言うと、微熱に対する解熱は支持されません。
発熱というのは、体が感染と戦っている証拠でもあるんです。好中球やマクロファージが活性化しているかもしれない。だから、38度を超えるとクーリングという病棟指示をよく見ますけど、基本的には様子見でいいと思います。
逆にクーリングすることで患者さんがシバリングしてしまって、寒冷刺激でガクガクして、結果として酸素消費量が増えるということもあるんですよね。
ただし、41度を超えるような高体温で細胞障害が起きうる場合や、患者さんがすごく不快になっている場合は解熱を考えます。
なんでもかんでもクーリングはしなくていいということは覚えておいてください。
- 微熱に対する解熱は基本的に不要
- クーリングでシバリングを起こすと逆効果
- 41度超や患者の不快感が強い場合は解熱を考慮
まとめ
85:00~終了
今回のセミナーでは、敗血症の診断から治療まで総括してお話ししました。
重要なポイントを振り返りましょう。
- 敗血症の定義はSepsis 3、2025年にはSOFA 2.0も発表された
- qSOFAはスクリーニングであって診断基準ではない
- 感染源の検索とソースコントロールが最優先
- 抗菌薬投与前に検体を取る、リスク層別化で投与時間を判断
- グラム染色と感染の三角形で抗菌薬を選択
- 輸液は密にモニタリング、ノルアドレナリンは早めに開始
- プロカルシトニンは診断ではなく抗菌薬終了の判断に使う
- 敗血症診療はLess is More
敗血症の診断って、クリアカットにいかないですよね。でも、だからこそ基本を押さえておくことが大事なんだと思います。
どうですか?今回のセミナーで気になったこと、もっと深掘りしたいことはありましたか?抗菌薬の選び方についてもっと知りたいという声もいただいているので、また一緒に勉強していきましょう。
ぜひ、あなたの感想を、オープンチャットやマシュマロで聞かせてください。
動画で難しかったところ、質問はオープンチャットへ!
今回のセミナー内容で難しかった部分や、もっと詳しく知りたいことはありませんでしたか?
わからないことがあれば、お気軽にオープンチャットで質問してください!
敗血症の診断や治療、抗菌薬の選び方について、一緒に学んでいきましょう。
それでは皆さん今月もお疲れ様でした!
また来月もよろしくお願いいたします◎





