今回は「敗血症の原因を探れ」というテーマで、セミナー内容をもとに解説していきます。
敗血症と診断できても、その原因となる感染源を特定することは意外と難しいものです。「これだ!」と思っても実は違っていた、という経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。今回は、感染源を見逃さないための実践的なアプローチをお伝えします。
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症例から学ぶ:思わぬ落とし穴
0:00~2:39
まず、実際に経験した症例を2つご紹介します。
症例1:尿路感染症と思いきや…
- 認知症がある高齢女性
- 意識障害で救急要請
- 前日から高熱があり、家族に連れられて来院
- 腰痛、倦怠感、食欲不振を訴えていた
- 救急外来では「尿路感染症」と診断し、検尿・培養を提出して抗菌薬を開始
しかし、上級医が診察したところ、耳鏡で中耳炎を発見。さらに髄液検査を行うと、細菌性髄膜炎のパターンを示していました。
実は中耳炎に合併した細菌性髄膜炎であり、腰痛は髄膜炎由来のものだったのです。
症例2:誤嚥性肺炎だけではなかった
- 基礎疾患に糖尿病がある施設入所中の高齢男性
- 40度の発熱と帯同困難
- 血圧低下で救急要請
- レントゲンで肺炎像あり
- 「誤嚥性肺炎」と診断
しかし、上級医の診察で以下が判明しました:
- 右耳下腺の腫脹と熱感
- 耳下腺管から口腔内への排膿
- 背面観察で感染性褥瘡も発見
実際の診断は急性化膿性耳下腺炎による排膿を誤嚥した二次性誤嚥性肺炎、さらに感染性褥瘡の合併でした。
これらの症例から重要な教訓があります。誤嚥性肺炎単独では通常ショックになることは少ないのです。こういった知識があれば、「何か他のフォーカスがあるのでは?」と考えるきっかけになります。
- 最初の診断で満足せず、常に「他にもフォーカスがあるのでは?」という視点を持つ
- 病態と重症度が合わない場合は、追加の感染源を疑う
- 身体診察を徹底することで見落としを防げる
感染源検索の2つの大原則
2:39~3:36
感染源の検索において、押さえるべき大きなポイントは2つあります。
1. コモンな感染症部位をしっかり評価する
日本のICUに入室されている敗血症患者さんの感染源の内訳を見てみましょう:
- 肺炎
- 腹腔内感染症
- 尿路感染症
- 皮膚軟部組織感染症
これらで全体の約9割を占めます。
つまり、救急外来で遭遇する敗血症のほとんどは、これらのよくある感染症が原因なのです。「Common is common(よくあることは、よくある)」という原則を忘れずに、まずはこれらをしっかり評価することが重要です。
2. 機能・構造の異常がある部位を探す
この視点については、次のセクションで詳しく解説します。
- 肺炎・腹腔内感染症・尿路感染症・皮膚軟部組織感染症で敗血症の9割を占める
- まずはコモンな感染症をしっかり評価する
- その上で、機能・構造異常に注目する
機能・構造異常をチェックする視点
3:36~5:03
感染源を探す際に非常に有用な視点が、「機能・構造の異常」に注目することです。覚えやすい分類として、以下の2つに分けて考えましょう。
「あるはずのものがない」場合
- 嚥下機能の低下 → 誤嚥性肺炎のリスク
- 排尿障害 → 尿路感染症のリスク上昇
- 皮膚バリアの破綻(アトピーなど) → 皮膚感染症のリスク
- 脾臓摘出後 → 肺炎球菌などの感染症リスク上昇(免疫機能の低下)
「ないはずのものがある」場合
画像検査や身体診察で発見できるものです:
- 尿管結石
- 腫瘍
- 膿瘍
- 傷・創部
- カテーテルなどの人工物
- 点滴ライン
- 中心静脈カテーテル
- 尿道カテーテル → カテーテル関連感染症の可能性
この視点を持つことで、感染源の検索が格段に系統的になります。
そして、最も重要なのは「決め打ちしすぎない」ことです。診断にたどり着きそうになった時こそ、一度立ち止まって「これで本当に正しいのか?」と自問する癖をつけましょう。
- 「あるはずのものがない」「ないはずのものがある」という視点で評価
- 機能障害(嚥下、排尿など)は感染リスクを高める
- カテーテルなどの人工物は感染源になりやすい
- 診断できたと思った時こそ、立ち止まって再評価する
Top to Bottom:頭からつま先まで評価する
5:03~6:37
感染源を見逃さないための鉄則が、「Top to Bottom(トップ・トゥ・ボトム)」アプローチです。文字通り、頭からつま先まで系統的に評価していく方法です。
網羅的評価の重要性
「Review of Systems」とも呼ばれるこのアプローチは、陽性所見を探すというよりも、見落としがないように一つずつ確認していくという視点が重要です。
普段なかなか意識しないような部位も含めて、くまなく評価することで、思わぬ感染源を発見できることがあります。
評価すべき項目(一例)
- 外耳の発赤や膿
- 口腔内の状態
- 頸部リンパ節
- 呼吸音
- 心雑音
- 腹部の圧痛
- 皮膚の発赤・腫脹
- 関節の腫脹・熱感
- 爪の所見(感染性心内膜炎のサイン)
耳を見る機会は普段少ないかもしれませんが、意識的に評価することで外耳炎や中耳炎を見逃さずに済みます。
- Top to Bottomアプローチで系統的に評価する
- 陽性所見を探すのではなく、見落としを防ぐ視点が大事
- 普段意識しない部位(耳、爪など)も必ず評価する
- Review of Systemsで網羅的にチェック
見落としやすい部位:特に注意すべきポイント
6:37~8:06
身体診察で特に見落としやすい部位をまとめました。これらは意識的に確認しないと、感染源を見逃す原因になります。
見落としやすい部位リスト
- カバーされて見えないところ
- 背中、臀部
- ベッドに隠れている部分
- 患者さんが寝ている下
- ドレッシングされているところ
- 手術創部
- ガーゼで覆われている部分
- 包帯で巻かれている部分 → 必ず自分の目で直接確認する
- 医療機器で隠れている部位
- パルスオキシメーターで隠れている指
- 実は爪の所見から感染性心内膜炎を見抜けた症例報告もあります
- 体液・排泄物
- 痰の性状
- 尿の混濁
- ドレーンの排液 → 実物を見ずに判断しない
- 圧がかかる部位
- 仙骨部
- 踵部
- 大転子部 → 褥瘡が感染の温床になる
- 評価のハードルが高い部位
- 眼底検査
- 直腸診
- 骨盤診 → 必要に応じて専門科にコンサルト
時間がない時こそ注意
忙しい救急外来やICUでは、つい画像検査だけで判断してしまいがちです。しかし、身体診察こそが感染源発見の鍵です。時間がない時ほど、この原則を思い出しましょう。
- 背中、ドレッシング部位、医療機器で隠れた部分は特に注意
- 痰や尿などの体液は必ず自分の目で確認
- 褥瘡好発部位は必ずチェック
- 時間がない時ほど身体診察を省略しない
培養検査の正しい取り方
8:06~9:39
感染源を特定するためには、適切な培養検査の提出が不可欠です。それぞれの検査について、知っておくべきポイントをまとめます。
血液培養
- 基本は2セット以上提出する
- セット数を増やすほど感度が上昇
- 1セットあたり20~30ml採取が妥当
- 感染性心内膜炎を疑う場合のみ3セットがガイドライン推奨
各種培養検体の提出基準
原則:感染が疑われる部位から取る
単に「ルーチン」で取るのではなく、臨床的に必要な検体を選択することが重要です。
喀痰培養
- 感冒症状がある
- 咳嗽がある
- 肺炎が疑わしい所見がある → これらの場合に提出
尿培養
- 頻繁に提出されがちだが、注意が必要
- 細菌尿があっても、不顕性(無症候性)のこともある
- 以下の場合に提出を考慮:
- 排尿障害がある患者
- 泌尿器系の症状がある
- リスクが高い患者(カテーテル留置など)
髄液培養
- 発熱があり、亜急性の意識障害がある患者では必ず取る
- 実際に陽性になる頻度は少ないが、見逃すと予後が非常に悪い
- 髄膜炎は見逃してはいけない疾患
上級医から「意識障害があって発熱がある患者さんだったら必ず髄液培養を取りなさい」と教えられた経験は、臨床判断の基本として非常に重要です。
- 血液培養は基本2セット、感染性心内膜炎疑いは3セット
- 培養は感染が疑われる部位から選択的に提出
- 尿培養は無症候性細菌尿との鑑別に注意
- 発熱+意識障害では必ず髄液培養を検討
画像検査の使い分け
9:39~10:30
感染源の検索には、適切な画像検査の選択も重要です。それぞれの感染症に対する推奨検査をまとめます。
画像検査の基本原則
第一選択は簡便なエコー(超音波検査)
多くの感染症で、まずはエコーから始めることが推奨されます。ベッドサイドで迅速に評価でき、繰り返し検査も可能です。
疾患別の推奨検査
- 感染性心内膜炎(IE):経食道エコーが基本的に推奨
- 壊死性筋膜炎:画像所見だけでなく、外科的切開による「フィンガーテスト」が重要(汚い滲出液の確認)
- 腹腔内感染症、膿瘍形成:CT検査が有用
- 肺炎:胸部X線、必要に応じてCT
- 尿路感染症(複雑性):エコーまたはCT
全体的に、CTが強力な検査ツールであることがわかります。ただし、すべての症例でCTが必要というわけではなく、臨床状況に応じて適切に選択することが大切です。
- 第一選択はベッドサイドで可能なエコー
- 感染性心内膜炎は経食道エコーが推奨
- 壊死性筋膜炎は外科的評価(フィンガーテスト)が重要
- CTは多くの感染症で有用だが、適応を考えて選択
グラム染色の活用
10:30~11:23
抗菌薬を選択する前に、グラム染色を行うことは非常に有用です。
グラム染色の利点
- 培養結果が出る前に起因菌を推定できる
- グラム陽性球菌か陰性桿菌かで、抗菌薬の選択が変わる
- ガイドライン上も推奨されている
実践のポイント
積極的にグラム染色を行っている病院も増えています。アクセスが良い環境であれば、ぜひ検査室で技師さんと一緒に実施してみましょう。
実際に顕微鏡で菌を見る経験は、とても勉強になります。救急系のスタッフの方は、ぜひ一度は見学してみることをおすすめします。
- 抗菌薬選択前のグラム染色は有用
- グラム陽性球菌・陰性桿菌の判別で治療方針が変わる
- 可能であれば検査室で実物を見る経験が大切
ソースコントロール:感染源への直接介入
11:23~12:19
敗血症バンドルの中で、特に強調したい重要なポイントがソースコントロールです。
ソースコントロールとは
感染源を物理的に除去・コントロールすることです。抗菌薬だけでは不十分で、感染の原因そのものに介入する必要があります。
「臭いものに蓋をしても良くならない」
膿瘍があるのに抗菌薬だけ投与し続けても、患者さんは改善しません。これは臨床でよく経験することです。
ソースコントロールの具体例
- 膿瘍形成 → ドレナージ(排膿)
- デバイス感染 → カテーテルなどのデバイス抜去
- 創部感染 → 洗浄、デブリードマン
- 壊死組織 → 外科的切除
- 胆管閉塞による胆管炎 → ERCP(内視鏡的逆行性胆管膵管造影)によるドレナージ
ガイドラインの推奨
「感染源を同定した後、可能な限り速やかにソースコントロールを実施しましょう」とガイドラインでも明記されています。
感染の温床となるもの
- 体液が滞留・淀んでいる場所
- 菌の供給源となる異物
- 血流のない膿瘍
- 壊死組織
これらをしっかり解除することが、敗血症治療の成功に不可欠です。
- 抗菌薬だけでは不十分、ソースコントロールが必須
- 膿瘍はドレナージ、デバイス感染はデバイス抜去が原則
- 感染源の同定後は速やかに物理的介入を行う
- 抗菌薬投与とソースコントロールはセットで考える
まとめ:感染源検索の実践的アプローチ
敗血症の原因を探るためのポイントを振り返りましょう。
1. 最初の診断で満足しない
- 「他にもフォーカスがあるのでは?」という視点を常に持つ
- 病態と重症度が合わない場合は要注意
2. コモンなものから評価する
- 肺炎、腹腔内感染症、尿路感染症、皮膚軟部組織感染症で9割
- Common is commonの原則
3. 機能・構造異常に注目
- 「あるはずのものがない」「ないはずのものがある」
- カテーテルなどの人工物は要チェック
4. Top to Bottomで系統的に評価
- 頭からつま先まで見落としなく
- 特に隠れている部位(背中、ドレッシング部位)に注意
5. 適切な培養検査と画像検査
- 血液培養は2セット
- 症状に応じて選択的に培養を提出
- エコーとCTを適切に使い分ける
6. ソースコントロールを忘れない
- 抗菌薬投与だけでは不十分
- 膿瘍のドレナージ、デバイスの抜去など物理的介入が必須
敗血症の原因を見抜くためには、系統的なアプローチと「見落とさない」という強い意識が重要です。
今回学んだポイントを日々の診療に活かし、患者さんの予後改善につなげていきましょう。
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今回のセミナーは以上です。お疲れ様でした!





