【対象のおすすめ読者】
ERローテ中の研修医の先生方ERで勤務する看護師の皆さま
そしてERローテ中の専攻医の先生方
これらの方々には、ぜひ読んでいただきたい内容です。
明日から実践できるアクションプランや看護師さん向けのコラムもありますので、最後までお付き合いくださいね!
これってVT…?!
変行伝導を伴うpAfなのか、それともVTなのか? 心電図でどう鑑別すればいい?
突然のドキドキ(動悸)が起こって、心電図を取ったら広いQRSが並んでいる…。
「これって本当に発作性心房細動(pAf)の変行伝導? もしかしてVT(心室頻拍)かも?」
という疑問が生じること、よくありますよね。
現場でよく言われるのが、
- 「QRS幅が広いならVTを疑う」
- 「不規則だったらpAf? 規則的だったらVT?」
…などのチェックポイントですが、実は例外も少なくありません。
今回は、変行伝導を伴うpAfとVTを見分けるうえで押さえておきたいポイントを、研修医や看護師でもわかりやすい形でまとめてみました。救急外来やICUで心電図に遭遇したとき、ぜひチェックしてみてください!
1.まずは基本:pAfとVTとは?
1-1.発作性心房細動(pAf)とは?
発作性心房細動(paroxysmal Atrial Fibrillation: pAf)は、心房が不規則に興奮し、心室に不規則なタイミングで電気刺激が伝わる不整脈です。
- 通常は狭いQRS(幅<0.12秒)のことが多いですが、変行伝導(aberrancy)が起こると一時的に広いQRSを示す場合があります。
- 「普段は細いQRSなのに、突然広がる拍が混在している」ときは変行伝導を疑うときもあります。
こちらの記事で心房細動についてはより詳しく解説しています▼
1-2.心室頻拍(VT)とは?
**心室頻拍(Ventricular Tachycardia: VT)**は、心室内で生じた異常な焦点が高速に電気刺激を出す不整脈です。
- 一般的に幅の広いQRS複合波(>0.12~0.14秒)が規則的に並ぶことが多いです。
- 心拍数は100~250回/分程度で、規則的に拍動します。
- 生命予後に関わる危険な不整脈として扱われ、早期に治療介入が必要になるケースが多いです。
2.pAf(変行伝導)とVTを見分ける5つのポイント
2-1.QRS幅(広いか狭いか)
- VTの場合:典型的にはQRS幅が0.14秒以上と非常に広いQRS波形を示すことが多いです。
- pAf(変行伝導)の場合:基本は狭いQRSが多いですが、一時的に伝導異常が起きると広いQRS波形になることがあります。
- ただし、VTほど明らかに広くないことも少なくありません。
- ただ「広い=必ずVT」というわけではない点が落とし穴です。
2-2.AV解離(房室解離)の有無
- VTでは、心房と心室が別々のリズムで動いている(=AV解離)ことがしばしば観察されます。
- たとえば、心室が高速で回っている間に、心房はゆっくりとしたペースメーカーに支配されている状態。
- ECG上でP波とQRSが全く関連していないケースは、VTを強く疑う所見です。
- pAfの場合、そもそもP波自体が細かく「f波」になっていたりしますが、心房が不規則に興奮し、それが心室に伝わっているため、AV解離は通常認めません。
2-3.QRS形態(aVR誘導や前胸部誘導での形態)
- VTでは、特定のQRSパターンが知られています。
- たとえば、aVR誘導で単相性のR波を示したり、前胸部誘導でRS複合波がすべて欠如していたり、RS間隔が長い場合など。
- pAf(変行伝導)でも、脚ブロック様の形態となって広く見えることがありますが、VTでみられる典型的な波形(aVRでの極端なR波など)とは異なることが多いです。
- もちろん、心室内伝導路の個人差があるため、一概には言えませんが、典型的VTパターンを示すQRSが並んでいるなら、VTを強く疑います。
2-4.規則性 or 不規則性
- VT:多くの場合、規則的なリズムで拍動します。
- 完全な規則性を崩さないまま速いレートを刻むのが特徴です。
- pAf(変行伝導):そもそもAFは不規則なリズムであることが多いので、RR間隔がバラバラに見えます。
- ただし、AFが高速すぎる場合や、変行伝導が絡むと、見た目がある程度規則的に見えることもあるので注意が必要です。
2-5.融合波・キャプチャー波
- VTでは、融合波やキャプチャー波が見られることがあります<sup>4</sup>。
- 融合波:異常興奮(VT)と正常興奮(洞調律)が合わさって、混じったようなQRS形態になる。
- キャプチャー波:正常な洞調律が心室の一部を捉え、**一拍だけ細いQRS(正常形態)**が現れる。
- pAfでは融合波・キャプチャー波は通常見られません。変行伝導は心房で起きた電気刺激が異常経路を通って心室を興奮させるだけなので、VT特有の“心室から湧き上がる”リズムとはメカニズムが異なります。
これらは心電図波形を見他方がわかりやすいですよね。
私自身も受験した心電図検定の学習に用いた参考書達が非常に役に立ちます。
もし興味があれば、こちらの記事から心電図の勉強法やおすすめの参考書をチェックしてみてください▼
3.総合評価が大事! 迷ったときはどうする?
pAf(変行伝導)とVTの鑑別は、1つの所見だけでは不十分です。
- QRS幅だけ見ても区別が難しいことがあります。
- 不規則に見えるからpAfと思ったら、実は多少変動するVTだった…という例もあります。
- AV解離の有無、融合波・キャプチャー波の存在、QRS形態、規則性など、あらゆる情報を総合して判断することが重要です<sup>1-5</sup>。
もし現場で「これはどっちだろう?」と判断に迷ったら、
- 救急外来やICUでは患者さんのバイタルサインや意識レベルを最優先。VTなら緊急処置が必要になるケースも。
- ECGを12誘導で可能な限りしっかりと記録し、先輩や循環器科の先生に相談。
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研修医・看護師さん向けアドバイスまとめ
- “広いQRSだからVT”は早計かも
- ただし、VTの可能性が高いときは安全側に立って、VTとして対応(迅速な治療や除細動の準備など)するのが臨床的には大事。
- 定期的に心電図の勉強を!
- pAf、VT以外にも、AF with WPW症候群、Bundle Branch Block(脚ブロック)など多種多様なパターンがあります。
- 日常的に心電図を見て慣れておくと、とっさのときに落ち着いて鑑別しやすくなります。
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まとめ
pAf(変行伝導)とVTの鑑別では、
- QRS幅
- AV解離(房室解離)
- QRS形態(aVR誘導やRSパターン)
- 規則性
- 融合波・キャプチャー波を中心にチェックする。
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参考文献
- Al-Khatib SM, Stevenson WG, Ackerman MJ, et al.
2017 AHA/ACC/HRS Guideline for Management of Patients With Ventricular Arrhythmias and the Prevention of Sudden Cardiac Death: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Task Force on Clinical Practice Guidelines and the Heart Rhythm Society.
Heart Rhythm. 2018;15(10):e73-e189. doi:10.1016/j.hrthm.2017.10.036 - Michael KA, Enriquez A, Baranchuk A, et al.
Failed Anti-Tachycardia Pacing Can Be Used to Differentiate Atrial Arrhythmias From Ventricular Tachycardia in Implantable Cardioverter-Defibrillators.
Europace. 2015;17(1):78-83. doi:10.1093/europace/euu169 - Joglar JA, Chung MK, Armbruster AL, et al.
2023 ACC/AHA/ACCP/HRS Guideline for the Diagnosis and Management of Atrial Fibrillation: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines.
Journal of the American College of Cardiology. 2024;83(1):109-279. doi:10.1016/j.jacc.2023.08.017 - Wellens HJJ, Bär FW, Lie KI.
The Value of the Electrocardiogram in the Differential Diagnosis of a Tachycardia with a Widened QRS Complex.
Am J Cardiol. 1978;41(4):747-754. doi:10.1016/S0002-9149(78)80142-6 - Gallagher JJ, Pritchett EL, et al.
The Preexcitation Syndrome Revisited: Part III. Atrial Fibrillation with Ventricular Preexcitation.
Circulation. 1976;53(2):181-187. doi:10.1161/01.CIR.53.2.181