私は昔から「医療ドラマ」が好きです。
医療ドラマを見始めたのは中学生くらいからで、最初に興味を持ったのはコードブルー。高校生の時には将来の進路に関わらずクラスのみんながこのドラマを見ていて、翌日にはドラマの話題で持ちきりでした。
医療ドラマでの見どころは生死のはざまで揺れる患者さんへどう接していくかという医療スタッフの葛藤だったり、時にはスタッフや家族との絆などがあげられますが、なんといっても注目されるのは命を劇的に救う救急現場でしょう。
主人公たちはその場のピンチを打開するような名案を閃いたり、圧倒的なスキルで瀕死の患者を救います。時に、「戻ってこい…!」とか「しっかりしろよ!」と熱量たっぷりに叫びながら。
自分自身もそういった医療ドラマにくぎ付けになって、かっこいいなあ…!と憧れを抱いた高校生の一人でありました。
しかし、医学生から研修医、そして救急医と自分の立場が変化していくにつれて、医療ドラマを見る視点が大きく変わってきていることに最近気づきました。
まず一つは、医療現場での治療介入にいちいち突っ込みを入れながらドラマを見てしまうこと…これは医療従事者あるあるではないでしょうか。
今期始まった新作ドラマ『アンサングシンデレラ』を見ていても、
・この心停止のACLSアルゴリズムのタイマーや記録は誰がやってる?
・ROSCした後なのに心電図とってない…
・そもそもみんなマスクしてない…笑
といった、本編とはあまり関係のない重箱の隅をつつくようなことにばかり気が言ってしまい、昔に比べてストーリーに没頭できなくなってしまいました。
これは弊害である一方で、周囲にいる医療従事者と共有することで話のネタになるし、それをきっかけに仲良くなれることもあるので悪いことばかりではないのかもしれません。
視点が変わったことはもう一つあります。これが一番大きな変化なのですが、ドラマをみていてかっこいいと思う医師像が変わったことです。
救急の現場で実際に働いていると、救急医療ドラマにも似たような突然の患者生死にかかわる危機に直面することも多く経験します。
ドラマであればリーダーや主人公が
「これは○○だ!●●●をするぞ!」
とみんなに叫んでドタバタと準備して、最終的にはクリティカルな治療や手技を華麗に成功させて危機を乗り越えることでしょう。やはり、戻ってこい!と熱く叫びながら…
こういった熱意を持った熱い頼れる医療スタッフに注目が集まりがちだし、なによりそういう医師はかっこいいなと思っていました。
一方で、実際の現場でのリーダーやコマンダーで求められるのは、冷静な判断と周囲スタッフへの指示出しといった能力です。自分自身で治療や手技をやり切るのではなく、いま現場にいるのチームのスタッフの得意分野に応じて役割を振っていく…統括者としての能力といえます。また、チームに足りない役割があればコマンダーに加えてその役割も担うキャパシティーも必要となってきます。
この役割はドラマやメディアの観点からみると地味で目立たないことも多いですが、
最近自分はこういった役割を担い全うする上司達がかっこいいなと感じます。
そして彼らは往々にして現場や日々の業務も冷静で、自分の役目を粛々と果たしながらどうすれば現場がもっと良くなるかを考え建設的な提案を続けます。
そもそも、ドラマでフィーチャーされるような命の危機を未然に防ぐことを念頭において働いているのです。
確かに救急の現場で情熱的に華麗な立ち振る舞いをできる医師は本当にかっこいい。
○○先生のおかげて命が助かりました!なんて言われるし、医療ドラマで脚光を浴びるのも容易に想像できます。
一方で緊急事態をあらかじめ察知して未然に防いだり、救急の現場でも一歩身を引いて指示系統を出せる人にスポットを当てた医療ドラマがあってもよいのではないでしょうか?
最近はそんなことを考えながら日々勤務しています。もっとも、そのようなドラマがあったとしたても、劇的な展開はなく高い視聴率は見込めないのかもしれないのですが…笑
タイトルイラストは友人(@mio.uesaka)作です👇